ノマドランド

ノマドランドのレビュー・評価・感想

ノマドランド
9

「人生の"喪失感"と向き合うこと」

リーマンショックによる企業の倒産、夫との離別により居場所を失った女性が、キャンピングカーで生活する「遊牧民」となる様子を描いたストーリーである。
物語に出てくる遊牧民は、実際に遊牧民として生きている方々が登場されているため、ノマド生活の偽りのないリアリティさが伝わってくる。
日本とは違う経済弱者達、彼らは人生で何かを喪失した経験をもっており心が強い。
さらに巡る土地の風景や人々は素晴らしく、社会の秩序や規律から遠く離れた、自然と共に生きる生き物らしさを感じさせる。
「ホームレスではなく、ハウスレス」本物のノマド民が口にしたセリフには強い説得力があった。
行き着く先で出会っては別れを繰り返し、仲間が亡くなれば自然の中で弔うノマドたち。
彼らは、それぞれが"喪失"を経験したからこそ強く、ノマドとしての生き方は決してロマンや逃避ではないようだ。
一緒にいたいと思ってもない人と一緒にいて、利便性ばっかりに頼り、物資的なものに執着しがちな日常生活から一旦身を引いてみたいと思わせる。
本物の土地や自然光を利用した迫力のある映像や音響と共に、バッドエンドでもなくハッピーエンドでもない、人間の静かな生き方に迫る作品である。

ノマドランド
9

アメリカの大自然と高齢の車上生活者たち

ネバダ州に暮らす60代のファーン(フランシス・マクドーマンド)は、暮らしていた町の企業がリーマンショックの際に無くなったことから、バンに乗って各地のキャンプ場などに車を止めて、アマゾンの倉庫や農場で季節労働者を始めます。同じような高齢者が様々なところで同じように車で寝泊まりする季節労働者として暮らしているのでした。彼らを支援するサイトもあり、様々な情報を提供したり、車上生活のためのスキルも教えているのでした。
本年度のアカデミー賞の作品賞と監督賞、主演女優賞を受賞した映画です。クロエ・ジャオ監督は「ザ・ライダー」で注目された、中国生まれのアメリカ国籍の監督です。前作「ザ・ライダー」でも、米国の自然の景色が美しく描かれていましたが、本作では晴天のシーンのみならず、もやに包まれた景色など、様々なアメリカの自然の風景が美しく描かれています。出演者は主役以外はほとんど実際に車上生活者として暮らしている人たちとのことです。ジャオ監督はこの映画により、マーベルのSF映画の新作「エターナルズ」を監督することが決まったとのことですが、どのような映画になるのかが楽しみです。フランシス・マクドーマンドさんは「ファーゴ」「スリー・ビルボード」に次いで、この映画で3度目のアカデミー賞受賞になりました。

ノマドランド
8

こういう生活があるとはっ。

ロードムービーがもともと好きなので、すごくよかったです。壮大な自然が次々と映って心を癒してくれました。ノマドって聞いたことありましたが、あまりよくわかっていなかったので、この映画を見て勉強できました。すべてを投げだして自由だなとも思いますが、実は自分からすべてを捨てた人は少なくて、何かを失くして、こういう生活に入っていった人が多いのかなと思いました。ノマド生活者って本当にあんなにいるのでしょうか。アメリカは車での旅ってのがあって、大きな道路、広大な自然って感じだから、結構多いのかもしれません。みんなでいろいろ情報交換とかするオフ会的なものがあったり、なんだか楽しそうでした。でも、奥底にはいろんな不安や悲しみがあって、とても切ない話でした。ノマドのいいところはさよならがないところだというセリフがありましたが、たしかに旅で出会った人とかは次がないのが普通でも、またねってわかれたりするし、結局彼らがどうなったとか知らないから、いつまでも再会を期待できるのかもしれないと思います。そして、そんな生活は寂しくも気楽であり、そういう生活もありだななんて思えました。結構淡々といろんな出会いを描いている作品で、そこまで盛り上がるところはなかったかもですが、なんだか見た後悲しいようなさわやかなような謎の感情に襲われました。

ノマドランド
6

【想いは永遠、物質社会の先にあるものを見据えよう】映画「ノマドランド」のレビュー

原作は「ノマド 漂流する高齢労働者たち」
キャストは主人公ともう一人のノマドを除き全員現地人。登場するノマドは現役ノマドです。
ノマドランドはそんな現役ノマドの現状を映したロードムービー。

夫に先立たれ故郷が廃れ住めなくなった主人公ファーンは、思い出の品など最低限の荷物をキャンピングカーに載せ、
ノマドとして生きています。
ノマドとは「現代の遊牧民」という意味。
遊牧民と聞けば聞こえはいいですが豊かと感じることは少ないのです。
どんな立場であろうが必要なのはお金なのでその日暮らしで仕事をこなします。
時にはアマゾンの倉庫で働いたり、ファーストフードで食に触れたり、建設現場で重労働をしたり。
寝泊りはすべてキャンピングカー。
自分の体もキャンピングカーも、調子が悪くなったらまず自分で何とかしなけれなばりません。
不便なことが多いけれど、物質至上主義の流れに異議を唱え自然と共存していくことを望んだノマド達。
アメリカの大自然をバックに映すノマドの現状はけっして不幸なものではないことを教えてくれます。

中盤ファーンは大事にしていた思い出の品を壊されてしまいますが、自力で直し気分を持ち直します。
しばらく転々とノマド生活をしていくうちに物を大切にしていくことに疑問を抱くのです。

物語のラストは廃れてしまった故郷に戻り過去を思い出します。
そして過去に比重を置きすぎた現状に決別をし、今まで大事に残していた思い出の品を処分します。
物ではなく想いを大事にしてノマドを続けていくことにしたのです。
この作品で訴えていることは物質社会の先にあるもの……【精神的な幸福】
目に見えないものこそ大切であると教えてくれます。
ネットショップのように自分が動かなくても解決できる便利なサービスが増える一方、心を疎かにしてしまう現代に警鐘を鳴らしているのかもしれません。

セリフが少なく情景や間合いがとても心に響く作品です。
この機会に大切な人と一緒に劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

ノマドランド
10

ホームレスではなく、ハウスレス!アカデミー賞受賞「ノマドランド」の感想・レビュー

アジア系女性が初の監督賞をあのアカデミー賞で受賞したのことで、早速映画館に行ってきました。個人的にもキャンピングカー生活に興味があり、自由で場所に縛られない生き方に憧れていたので、好奇心半分のかるーい気持ちで見に行きました。そしたら…!

★金言とも思える名セリフが心に染みる
それぞれの人生に物語があり、それぞれの生き方がある。少数派のノマド生活者に対しての世間の風当たりはキツイけれど、たくましく生きる姿に心打たれます。本当の幸せって何?生きるって何?人生の豊かさについて、穏やかに導てくれる言葉にあふれてます。

★キーパーソンとなる登場人物がみーんな、ノマド生活者の本人が出演!
あとで知ったけれど、映画のキーパーソンとなるノマド仲間のリンダ、ちょっといい感じになるデイブ、ノマド生活の本質を教えてくれた先輩スワンキーも、みーんな実際にノマド生活をしているご本人が出演!自然な演技と言葉に重みがあったことにびっくりだけど、納得。

★幸せのあり方は人それぞれ。自分に正直に生きる。
アメリカの壮大な自然を背景に、他人の価値観に捕らわれることなく自分の生きる道を一人バンで走っていくファーンの姿に、今の時代に生きる私たちに幸せのあり方を考えさせてくれます。自分に正直に生きると、他人にも正直になる。ときどき、正直すぎて衝突することもあるけれど、本当はそれで良いのかもしれない。