ノマドランド

sumisumi_04153のレビュー・評価・感想

ノマドランド
9

「人生の"喪失感"と向き合うこと」

リーマンショックによる企業の倒産、夫との離別により居場所を失った女性が、キャンピングカーで生活する「遊牧民」となる様子を描いたストーリーである。
物語に出てくる遊牧民は、実際に遊牧民として生きている方々が登場されているため、ノマド生活の偽りのないリアリティさが伝わってくる。
日本とは違う経済弱者達、彼らは人生で何かを喪失した経験をもっており心が強い。
さらに巡る土地の風景や人々は素晴らしく、社会の秩序や規律から遠く離れた、自然と共に生きる生き物らしさを感じさせる。
「ホームレスではなく、ハウスレス」本物のノマド民が口にしたセリフには強い説得力があった。
行き着く先で出会っては別れを繰り返し、仲間が亡くなれば自然の中で弔うノマドたち。
彼らは、それぞれが"喪失"を経験したからこそ強く、ノマドとしての生き方は決してロマンや逃避ではないようだ。
一緒にいたいと思ってもない人と一緒にいて、利便性ばっかりに頼り、物資的なものに執着しがちな日常生活から一旦身を引いてみたいと思わせる。
本物の土地や自然光を利用した迫力のある映像や音響と共に、バッドエンドでもなくハッピーエンドでもない、人間の静かな生き方に迫る作品である。