ミッキー・ローク復活と重なる「レスラー」の生き様をここにみる
主人公であるミッキー・ローク演じるランディ・"ザ・ラム"・ロビンソンは、80年代に人気を博したプロレスラーだが、落ちぶれて今はトレーラーハウスに住み、プロレスの傍らスーパーでバイトをしながら日銭を稼ぐ日々。
プロレスという、華やかに見える舞台の裏で、レスラーのリアルな日常が描かれる。痛み止めの薬を買い、日焼けサロンで肌を焼き、金髪に染め上げて、ランディは"ザ・ラム"を作り上げて行く。
そんなランディも老いには勝てず、試合後の控室で倒れ心臓の手術を受け、医者からプロレスを禁じられる。
退院したランディが、馴染みのストリッパーであるキャシディに会いに行き、「独りは辛い」と心情を吐露すると、家族が大事だと諭され、長年疎遠になってなっている娘に会いに行くよう促される。
娘の元へ行くも、突き放されるランディ。だが、キャシディの助言で、プレゼントを買い再び会いに行くと娘は受け入れてくれ、夕食の約束もした。
ランディが、娘を真正面に見ながら「お前に嫌われたくない」と涙を流すシーンは、「もしかしてランディは変われるかも…!」と期待してこちらも応援したくなる。
が、この映画はそんな王道のストーリーを辿らない。キャシディに言い寄るも突き放されてヤケになり、薬をキメ、よその女性と情事に耽ったランディは娘との約束の時間をすっぽかし、絶縁宣言されてしまうのだ。観ているこちらが「ああ、何やってるの…。」とうなだれてしまう…。
さらに、スーパーでは絡まれた客にキレて店をメチャクチャにした挙句出て行ってしまう。
一度は引退を決めていたランディだが、20年前の名勝負を持ちかけてきたプロモーターに連絡をして、試合の約束を取り付ける。
当日、出場を止めるキャシディに対して「俺にとって痛いのは外の現実の方だ。」と言って、観客の声に誘われたランディは、リングに向かう。
試合の途中で異変を感じ、レフェリーや対戦相手に終わりにしよう、と促されてもランディは聞かない。心臓をおさえてトップロープから得意技「ラム・ジャム」を放つところで映画は終わる。
この映画の最大の見せ場は、けっきょく最初から最後まで、ランディは何も変わらなかったということ。娘との関係も修復されないし、キャシディとの関係も進展がない(むしろ去られる)。「外の現実の方が痛い。」というランディの言葉が全てを物語る。結局、ランディはいくつになっても、病気を抱えても、リングにしか居場所を見いだせなかったのだ。キャシディが試合を観ていないことに気づいたランディは、少しだけ笑う。これが「ロッキー」なら、最後まで試合を観てリングに駆け寄り、抱き合ってハッピーエンドとなるところを、実にリアルで潔い結末で締められるのだ。
老眼鏡をかけ、補聴器を付けて、さらに死にかけてもなおリングに向かう姿は、バカじゃないかと思うも愛おしくなる。そして最後は号泣必至。