煙と蜜

煙と蜜のレビュー・評価・感想

煙と蜜
9

長蔵ヒロコはいいぞ。

文治と姫子は許嫁同士で18歳の年の差がある。これだけ離れていると本命じゃないのではないか、暴力振るわれたり辛い目に会うのではないかとヒヤヒヤするが安心して欲しい。文治と姫子のやりとりは可愛さに満ち、笑顔溢れるストーリーばかりなのだ。
1巻に収められている「満月と名前」は2人の程よい距離感を表現しつつ、文治が姫子を大事に思う気持ちを表した話だと思う。2人は、姫子が15歳になった時結ばれる。どう接したらいいか、素敵な女性になるためにはと努力する姫子ちゃんの姿も可愛いらしく、「できるようになりたい事」を書き留めていたノートを文治に見られ、赤面するエピソードもおすすめだ。
軍人であり、大隊一つを率いる文治。700人の部下の命を預かる彼が眉間のシワをほぐし、一息つける場所が姫子のいる花塚邸でもあるのだ。皆で夕飯を食べたり、姫子の相談相手になったり、家主と将棋を楽しんだり生きる上で大事な場所になっているいっても過言ではないと思う。
この作品は描写、言葉のセンスも惹かれるものがある。大正時代の名古屋を舞台に四季の移ろい、花塚邸の様子、登場人物の表情、当時の街中の様子もとても綺麗に描かれている。姫子の母が倒れ、医者を呼びにいくシーン、縁側に座り食後の一服を楽しむ文治、当時は贅沢な入浴、生活を営む登場人物の生き生きとして美しい場面ばかりである。
軍人と少女、年の差が好きな方へぜひおすすめしたいのが長蔵ヒロコの「煙と蜜」である。

煙と蜜
8

大正ロマン、年の差ラブ

舞台は対象5年の名古屋。12歳の姫子と30歳文治の年の差恋愛漫画です。許嫁同士の恋愛模様です。文治のことが好きすぎてどうすればいいかわからず、嫌われないよう、仲良くなれるよう頑張る姫子が可愛いです。1話では、文治へお茶を出す時にしゃっくりが出てしまい、止まらない状態のまま運んでいきますが、恥ずかしがって嫌われてしまうのではないかと悩む姿が恋愛をしている人の共感を呼ぶと思います。最終的に文治が止めてくれるのですが、その動作に真っ赤になってしまう姫子が初々しいです。許嫁にときめきながらも病弱な母親を気遣い世話をしたり、女中の仕事を手伝うなど、常に自分ができることを探し行動していく姫子の健気さにも心動かされます。最初は文治は姫子のことを許嫁殿と呼んでいたのですが、お月見の夜、月の愛称が多いという会話から、自分のことも名前で呼んでもらえないかお願いするシーンは、読んでいる側もドキドキします。また、台風が来た夜のこと、風雨対策のために駆け付けた文治が泊っていくことになり、夜を一緒に過ごせるだけでなく、一緒の部屋で寝られることになり嬉しさと緊張が混じった姫子も可愛いです。普段は軍服の文治が着物姿になり、色気が漂います。病状が悪化した母親が回復してきたため、おいしいものを食べてもらおうと女中が作りすぎたおかずを、訪ねてきた文治が平然と平らげたので気持ちが良かったです。姫子の恋の一方通行ではなく、文治も職場で若い女性が楽しめる観光スポットを色々聞いていく回があり、相思相愛の関係が伺えます。姫子が結婚できる年齢まであと3年あるようなので、続きが気になります。

煙と蜜
10

「煙と蜜」の魅力

漫画誌ハルタからでたこのマンガは大正時代の名古屋を舞台にしていて、とある一組の許嫁たちを中心に大正を生きる人々を描いた作品です。
尋常小学校六年生の花塚姫子には陸軍少佐の土屋文治という十八歳年上の許嫁がいます。
姫子は祖父、病気療養中の母、姉のように慕う四人の女中たちと暮らしながら日々許嫁の文治にふさわしい女性になろうとしています。
文治はそんな姫子の様子をゆっくり穏やかに見守り、時に姫子を助けたりします。
そんな二人がそれぞれの思いを持ちながら大正という時代で生きていく様子を、このマンガは丁寧に心情の流れを動かし、急ぎすぎないテンポで描いています。
とにかくこの二人の距離感が絶妙で姫子の努力する姿は愛らしいですし、そんな姫子に話しかける文治は大人の男性としての魅力が姫子と読者の胸に刺さります。
二人の周りにいる人々も個性的な人たちばかりで、年の差がありすぎる二人に色んな形で関わりマンガの個性を引き立たせています。
少女漫画の初々しいラブストーリーのように読者をキュンとさせますが、大正という時代の個性もきちんと描いているのでラブストーリー以外の一面も見られます。
ぜひ一読してみてはいかがでしょうか?