辺境の老騎士 バルド・ローエン

辺境の老騎士 バルド・ローエンのレビュー・評価・感想

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辺境の老騎士 バルド・ローエン
10

正統派ハイファンタジーグルメ作品

若者のハイファンタジー作品はいくつかあるものの、本作はめったにない58歳の老騎士バルドが主人公の作品です。
バルドは生まれ育った守るべき故郷が危機に瀕した際、問題を解決し救う代わりに、自分の全財産を投げ出し、放浪の旅に出ました。老いた先にある死出に行くつもりの旅は、やがて世界を救う旅になっていきました。
主人公が若者のときにありがちな葛藤の描写が少なく、むしろバルドは若者を導く立場の主人公でした。
よくあるハーレム要素が一切存在しないうえ、だますような神から力を授かる能力ではなく、長年の経験と技術に重きを置いているため、とても説得感がありました。
何より最も特徴的なことは、グルメ漫画と思ってしまうほど、食事の描写がとても詳しく濃厚でした。食欲を刺激させる想像しやすい表現の巧みさは、ほかの追随を許さないでしょう。
全く現代と異なる感嘆の表現や、長さの単位、食事の調味料まで、徹底したこだわりは、まさに「ハイファンタジー」と呼ぶにふさわしいでしょう。
個性豊かな仲間たちとのバルドの世界を救う旅は、あるときは戦いの苦難、あるときは人々との笑い、あるときはそれぞれの地方の美味しい食事がありました。『辺境の老騎士』は自信をもってオススメできる作品です。

辺境の老騎士 バルド・ローエン
8

グルメマンガ?ジャンルは何なのだろう?だが確実に面白い!重厚な騎士の旅の物語「辺境の老騎士バルド・ローエン」

時代が昭和から平成、令和と移り変わるように。マンガを読んでいた少年が大人になり、結婚して子を持ち、その子供がまたマンガを読んでゆくように。時が流れるにつれ、マンガも様々な変化を重ねてきました。
「ドラゴンボール」に代表されるバトルものが主体であった、「少年ジャンプ」。「GTO」などが流行った、ヤンキーものが代表される「少年マガジン」。高橋留美子やあだち充が時代を作った、恋愛ものの「少年サンデー」。時代により多様なジャンルのマンガが生まれ、それぞれ流行を作っていきました。
そんなマンガのジャンルの中で、近年脚光を浴び始めたグルメマンガ。古くは「美味しんぼ」、少々マニアックな「孤高のグルメ」、グルメとヤクザの異色タッグ「極主夫道」、異世界系の「異世界居酒屋のぶ」など、ひとえにグルメマンガといっても、多岐にわたるストーリーが描かれています。そんなグルメマンガの中で最近のおすすめが、Webマンガ「マガポケ」で連載中の「辺境の老騎士バルド・ローエン」です。群雄割拠のグルメマンガの中で、何がそこまで引き付けるのか?その魅力を紹介していきます。
さて、この「辺境の老騎士バルド・ローエン」。グルメマンガといいつつも、作中で様々な要素を持っています。
まず騎士とある通り、メインは騎士の戦いの物語であります。騎士として仕えていた国を、陰謀の為に自ら去り、旅を続けながら策謀と戦い、自身の正義をなします。重厚な作画でありながら、軽妙で読みやすい部分もあり、やはり戦闘では迫力のアクションが作品を輝かせます。騎士の旅と戦いの物語としてだけ見ても、非常に楽しめる作品です。
そして序盤を抜けると、旅の要素が強くなってきます。訪れた旅先々で問題を解決し、また戦いで獣を打ち倒します。行く国々でも貴族特有の陰謀があり、それを解決していく姿は、例えるならば「水戸黄門」です。主人公自身が公平な精神の持ち主の為、そのような勧善懲悪の物語が生えます。
そうしたストーリーの中、メインなのかサブなのか?このマンガにスパイスを加えているグルメ要素が多く描かれています。
主人公は黄門様と格さんを足して割った、お堅い正義漢です。ですがこの主人公、実は八兵衛要素が一番強い、いわゆる食いしん坊さんなんです。
民を助けては腹が減り。悪を倒しては腹が減り。魔獣を倒しても腹が減り。しまいにゃ腹を満たすため、食材を狩りに行きます。
そしてそのグルメ表現が、また美味しそうなんです。ファンタジーな世界観で、現実の食材とは名称を変えていますが、「炊きプラン(穀物らしい)の卵まぜ」など、そりゃ卵かけご飯やんけ!と思わずにいられません。
作品からの抜載ですが「生卵を混ぜた炊きプランは食い物だと思っちゃだめだ、飲み物なんだ」とかのセリフは、現実にいながらまざまざと味が想像できます。そうした食に対する表現が、当タイトルの魅力を何倍にも高めています。
バトルあり、勧善懲悪あり、旅があり、そしてグルメがある当タイトル。おすすめですので、ぜひ機会がありましたらご覧ください。

辺境の老騎士 バルド・ローエン
9

最高にかっこいいおじいちゃん

騎士として生涯を人民のために尽くし、本人の意思によらず絶大な信頼と人望を得た老騎士バルド・ローエン。
この肩書だけでもすでにかっこいいのですが、あまりにも周囲から見た自分の存在が大きくなりすぎたことで、その存在が争いに利用される未来を見据え、彼は決意します。家族はなく弟子は立派に育った、体にもガタが来ていて寿命もそれほど長くないだろう、と棋士を引退し住んでいた館と財産を返上。生涯最後の旅を始めます。
その心持ち、生き様はどこまでもかっこいいです。
年齢を重ねて昔ほどの体力や耐久力がないとはいえ、無敗の騎士と呼ばれた腕は並の戦士よりはやはり上のまま。軽々しく人の事情に顔を突っ込んだりはせずとも、時に命をかけて悪徳者を討つ若者たちの最後を見届けたり、無実の罪に問われた職人を救うなど、勇姿が垣間見れます。
騎士としての誓いを王や国ではなく人民にたてたその信条は健在で、大人の事情をわかった上でしっかりと恥じぬ行いを貫きながらも、自分の手が届く範囲の人を救う姿は、彼が英雄視された歴戦を物語っています。
キャッチコピーの「死出の旅、それは世界中で語り継がれる冒険の始まり!!」は、物語を読む前から彼が伝説となる未来を語っていますが、結末がわかっていたとしてもなお、彼の道中は魅力的です。