ゼロ年代邦ロックの金字塔、ここがすべてのはじまりだった。
相対性理論は、ヴォーカル・作詞担当の「やくしまるえつこ」を中心に据え2006年に結成されたフォーピースバンドである。『荒川アンダーザブリッジ』『輪るピングドラム』『四畳半神話大系』など数多くのテレビアニメ作品の主題歌を担当したやくしまるだが、彼女の音楽活動の原点として必ず挙げられるのが相対性理論での活動であろう。
ゼロ年代邦ロックの金字塔、と仰々しいタイトルをつけてしまったが、1枚目のアルバム『シフォン主義』はライブ会場での直販と通販のみの流通にも拘らず4000枚を売り上げ、全国販売になるやいなやタワーレコード全店のウィークリーJ-POPインディーズチャートで1位を獲得する快挙を成し遂げた。これが相対性理論の怒涛の快進撃の始まりであり、彼らに向けた「金字塔」という比喩もあながち間違いではないと思う。
その後『ハイファイ新書』『シンクロニティーン』の2枚を世に放ちその人気を不動のものとするが、ベーシスト・真部脩一とドラマー・西浦謙助の脱退やメンバーチェンジ、やくしまるのソロ活動の拡大によって活動は停滞する。しかし、2018年には3年ぶりのシングル『NEO-FUTURE』をリリースするなど、活動を散発的に行っている。
彼らの音楽が、リリースから十数年経ってもなお私たちを惹きつけて止まないのはなぜだろうか。その答えは、すでに『ハイファイ新書』収録の「地獄先生」という曲に集約されていた。1番の歌詞を引用したい。
授業参観 恋の予感
家庭訪問は地獄の門
放課後の校庭で
課外授業の愛を知る
『ハイファイ新書』収録曲「地獄先生」より
押韻のインパクトと世界観の頽廃さが余りにも強烈であるこの一節は、まだ20代初頭のやくしまるの独特の発声とブレスによって切なく歌われている。卒業を控えた女子高校生の担任教師へのアヴァンチュールかつストレートな思慕を真空パックしたようなこの曲に、当時のティーンズたちは熱狂した。
そして「テレ東」「四角革命」「学級崩壊」といったタイトルのソリッドな手触りが、都会的かつ文明的なアルバムイメージをより強固にしている。
先に挙げた押韻のインパクトについてであるが、このポイントを軸にして相対性理論と、令和の邦楽シーンの代表格かつインターネット発の覆面アーティスト「ずっと真夜中でいいのに。」とを関連して語られることが少なくない。「お勉強しといてよ。」に代表される楽曲の多くも、こうした言葉遊びや押韻のエッセンスを投入したものであることが多い。もちろん相対性理論だけが現在のJ-POPの土壌を用意したとは言わないが、後続アーティストに与えた影響はあまりにも大きい。
相対性理論というひとつの現象は間違いなくすべてのはじまりであったと言える。彼らの楽曲のひとつひとつが、多くの人間によってノスタルジーの一端として語られるインターネット的言論の源流にひっそりと横たわっているのだ。