紙の月 / Pale Moon

紙の月 / Pale Moon

『紙の月』(かみのつき)は、日本の小説家・角田光代によるサスペンス小説、またはそれを原作としたTVドラマや実写映画。『静岡新聞』2007年9月から2008年4月まで連載されていた作品で、その後、他の地方紙に順次連載された。2012年に単行本が発売されて、第25回柴田錬三郎賞を受賞した。2014年1月7日から2月4日にかけて、全5回でTVドラマが放映された。その時の主演は原田知世。同年11月15日には宮沢りえ主演で映画化もされている。

4qchopami_15のレビュー・評価・感想

紙の月 / Pale Moon
8

辛い現実なんて捨てていいのかも

夢の中や映画の中の世界、嘘の世界だと分かっていてもこの中にずっといたいという瞬間は人生にありますよね。そんな瞬間を鋭く描いた映画です。
主人公の梅澤梨花はパートから契約社員となった平凡な銀行員です。仕事はまずまず順調なものの夫との関係はあまりうまく行っていませんでした。不倫や大喧嘩をしたわけではありませんが、小さなすれ違いが気持ちを遠ざけます。梨花の初めての給料で買ったペアウォッチのプレゼントをもらった後日、カルティエの時計を渡して「もっといい時計をしなよ」と言ってきた夫に不満と無力感を感じた梨花は少しずつ人生の道を踏み外します。
退職した女性社員の後を引き継いで裕福な老人への営業の帰り道、化粧品欲しさに受け取ったお金を着服。ここが人生の分岐点になりました。老人の家で出会った光太と不倫関係を重ね、契約金の着服もエスカレート。気づくと数百万の借金を抱えていた梨花は着服がばれ追い込まれたその瞬間、椅子で会社の窓を割りに全力疾走で逃走します。
紙の月のいい所は、物語の進行が決して説明的でなく、何気ない会話のずれや表情、カットで登場人物の心情を描写しているところです。梨花が光太との一線を超えるその瞬間、会話はありませんが間違いなく運命的であるということが分かるシーンになっています。
平凡で何も起きない人生より、嘘にまみれた虚構を突き進んだ方がいいというメッセージは、主人公に共感できない人には刺さらないと思いますが、一方で少しでも考えたことがある人にはとても響く、そんな映画になっています。