勝ち負けとは何か
不満点を先に挙げますが、全体的に駆け足気味です。
コンテンツが豊富な今の時代には、テンポ良くお話が進むスピーディーな展開が好まれがちではあると思いますが、人によっては展開が速すぎて置いてけぼり感を抱く可能性があります。
その点に目をつぶりさえすれば、あとは褒めるところしかありません。
とにかく鑑賞者を飽きさせない、スリリングでなおかつ心を揺さぶる映画です。
この作品は人を眠らせ自由自在に夢を見させる鬼、魘夢が登場します。
精神操作系の能力です。
特筆すべき点は悪夢ではなく、幸福な夢を見させることです。
主人公の竈門炭治郎は幸せな夢を見ます。
家族は全員生きていて、禰豆子も鬼にはなっていません。
日輪刀など握らず、炭焼きの仕事をしながら楽しく暮らす夢です。
そう、幸福な夢だからこそ、惨いのです。
その夢から目覚めるということは、幸福を自分から手放すことです。
たとえ夢であっても、それは容易なことではないのです。
主人公が家族を振り切るシーンは、胸に込み上げてくるものがありました。
アクション要素は言うことなしで、ラスボスである猗窩座と煉獄杏寿郎の鬼気迫る戦闘シーンは圧巻です。
この物語は安易に単純に答えてしまうのなら、激戦の末に煉獄杏寿郎は死亡し、あまつさえ鬼を取り逃すだけの話です。
これだけ聞くと拍子抜けかもしれません。
ただのバットエンドではないかと。
ですが、そうではないのです。
この物語の勝利条件は、他にあるのです。
炭治郎が逃走する上弦の参、猗窩座に言い放った言葉。
その言葉はかなり核心を突いた言葉です。
ただの負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、のちに明らかになる猗窩座という鬼の過去を理解すれば、本当の勝利者が煉獄杏寿郎であったことが理解できるのです。