いつまでも心に残る圧巻の演技と歌唱
ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』、日本語版『ああ無情』のミュージカル映画。この映画が大好きで、年に1回は見て毎回毎年感動し毎年悲しみ喜び泣いています。俳優陣の演技力と歌唱力がすごすぎて、小説を読むような気持ちで見終えてしまう作品。歌っているのか喋っているのか、彼らは歌手なのか俳優なのか、そんなことを考える暇はありません。音楽や歌は言うまでもなく素晴らしく美しい。アン・ハサウェイ演じるファンティーヌのシーンははじめと終わりにしかないものの、圧巻です。語るように歌い、歌詞ではなく言葉として胸に響くのです。また、ヒュー・ジャックマン演じるジャン・バルジャンをはじめとする、いわゆる作品の中で"善"とされる人々は勿論、"悪"もしくは"敵"とされる、ジャン・バルジャンを追い続ける警察ジャヴェールや、幼き日のコゼットをいじめていたテナルディエ夫妻など、すべての人々に感情移入し寄り添う事ができる作品です。"善"とされる人々のシーンだけではなく、"悪"("敵")とされる人々のシーンが印象的なのが、この作品の特徴でもあると思います。特に私が胸を打たれたのは、ジャヴェールが川に身を投げるシーン。前半では自信に満ち溢れ己の正義を信じて警察としての仕事を全うしてきた彼。少しずつ迷いが生じ、やがてジャン・バルジャンを故意に見逃した事で己の正義に反してしまい、自ら身を投げるのです。本来であれば、主人公のジャン・ヴァルジャンやマリウスが助かったのですから喜ばしいシーンですが、単純にそう思えないのがこの作品の奥深さや魅力であると思います。ストーリーというのは原作に基づいたものではありますが、人々にどのように思わせるか、考えさせるかという演出はこの作品独自のものであり、特に、考えさせることに長けた作品です。また、このシーンをはじめ作品中でかなりの人が亡くなってしまいます。ただ、どのシーンも印象的で、決して無駄ではない死のシーン。ひとりひとりに正義があり、人生があり、葛藤がある。善悪で終わらせずに一人一人の人生を歌い、演じあげ、見た者に思いを巡らせ考えさせる作品です。