生まれてこない方がよかった命もある
頭をからっぽにして約2時間の暇つぶしをしたい、という人には最適な映画だろう。次々にスリルと迫力のある一級品の映像と音楽が絶え間なく現れて楽しませてくれる。そういう意味のクオリティには疑いがないし、ラストに至るまで興奮しっぱなしの映画体験が味わえるだろう。
しかし、シリーズを通してのファンにはいささか不満の残る出来だろう。登場人物の行動には一貫性がないし、旧シリーズのロストワールドの焼き直しのように思えるメインプロットには、今更感がつきまとう。島から恐竜たちを救い出すというストーリーの時点で観客にはどうせ無理だろう、失敗するだろうという未来しか見えない。物語の性質上、そういう冷めた視点からは逃れられないのがこのシリーズの運命ではあるのだが、それにしても5作目である。さすがに今回は大丈夫なんじゃないだろうか、そう観客に思わせられるシークエンスは絶対に必要だったし、そのフォローが一切ないままに進行する今作は、恐竜以下の頭脳しか持たない人間しか登場しない、薄っぺらい作品になってしまった。
こんな風に前作で登場した魅力的なキャラクターたちが消費されていくのであれば、この作品は作られない方がよかった。島から恐竜を連れ出すという目的自体にあまりにも無理がありすぎた。すばらしい映像体験の中で頭の半分ぐらいにはそういった思いが付きまとう。
敵となる恐竜にしても、前作のインドミナスレックスが独特の存在感を発揮していたのに対して今回のインドラプトル(インドミナスラプトルだと思われるのだが)はエイリアンの皮を被ったよく訓練された警察犬というぐらいでしかなく、生物としての魅力に欠けていた。造形やディティールへのこだわりは感じるものの、中途半端に兵器化されているせいで、旧作におけるラプトルほどにも恐ろしさがない。性懲りもなく改造恐竜を生み出しては殺してしまうジュラシック・ワールド。こんな風に作中で作られた命をもてあそぶぐらいならそもそもこの作品自体を生み出さない方がよかったのではないだろうか。