絶妙な世界観
死後の世界のお話です。お役所に見立てて、自殺課、殺人課、老衰課、事故課…などと死後の行先が決められていて、死んだ人は皆、成仏するために「お役所」で手続きをしていく…という設定です。
基本的に短編のお話がいくつか入っていますが、主人公は老若男女さまざまで、それぞれに人間味あふれるストーリーが展開していきます。たんたんと、言葉少なに進んでいく反面、「死」を扱っているだけあって心に刺さる、胸が痛くなるようなヒューマンドラマもあります。
例えば、ずっと子どもが欲しくて不妊治療していた夫婦がやっと授かった子どもが死産で産まれてしまうお話。死の結末はわかっているのに、結果だけが重要ではなく夫婦で共有していくその「過程」に意味があり、産まれた赤ちゃんは微笑んでいた…。
他にも。いじめを苦に自殺した子が後から親の愛を知る話など、ただ感動させようとしてお涙頂戴的にストーリーが進んでいくわけではなく、救われない・理不尽な面も描かれていて、胸にぐっとくるような、短編なのに深い仕上がりの作品なのです。
ストーリーの進行役としての主人公、シ村(死者が最初に行く総合案内所にいる)さんが、慇懃無礼でありながら仏様のようにも見える、謎深き人物で…。これまた魅力的なんです。
タイトルから感じるような恐怖、ホラーものではありせん。本当によくできた世界観で、一人ひとりの人生が丁寧に描かれていて、ずーっと読んでいたい作品です。