時代に抗った黒人ピアニストと、無学な白人用心棒の心の交流を描く
まだまだ黒人差別の色濃い1960年代。一流のミュージシャンと言えど例外ではありませんでした。
本作の主人公であるイタリア系アメリカ人であるトニー・リップは、生活のためにある黒人ピアニスト、ドン・シャーリーの運転手兼交渉人を引き受けます。
特に差別の残る南部一帯を巡るツアーに出たシャーリー一行を待ち受ける、賞賛と侮蔑の入り混じった世界。アフリカ系アメリカ人が安全に旅行をするために黒人旅行者が携帯した、グリーンブックという本作のタイトルに、当時の有色人種を取り巻く環境が託されています。
困難な状況を持ち前の腕っ節と機転で切り抜けながら、無事クリスマスまでにニューヨークに帰ってこれるのか。
文化や芸術の世界で、黒人が目覚ましい活躍を見せた1960年代。リトル・リチャードやアレサ・フランクリンなど、本編にも登場した多くの黒人も差別に苦しめられていました。
個人的にはツアー最後の公演地での出来事が印象的でした。コンサートを放棄しても守るべき人としての尊厳。胸を打つシーンです。
イタリア系アメリカ人であるトニーもまた、黒人に対して差別意識を持つ、ごく普通の白人の一人でしたが、博学で才能溢れるシャーリーの姿に敬意を抱くようになります。
人種の壁を超えて人と人の心が通い、差別に立ち向かう様に心うたれました。