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繊細な心の動きに目が離せない作品
女性同士の恋愛を描いた、いわゆる「百合」作品の中には、男性が一切登場しないものも少なくはありませんが、この作品には男性が複数登場しており、よりリアルな学校生活の中での恋愛が描かれています。恋を知らない少女・小糸侑が、一見完璧に見える先輩・七海燈子と出会い、お互いが少しずつ変化していくこの物語。百合がテーマと言うよりは、ヒューマンドラマと言えると思います。
それぞれの登場人物が、様々な人と出会い、それぞれ違った形で成長していき、その中で生まれる恋愛感情などが自然に表現されています。一目惚れなどではなく、少しずつ関係性に変化が表れていくことが、感情移入しやすく、読者の心を掴みやすい点だと思います。
また、百合作品においては、登場人物が女性同士の恋愛に全く抵抗がないものと、抵抗があるものに分かれていますが、この作品はどちらかと言えば後者で「女同士なんて…」という葛藤と、それに反して膨らんでいく感情が巧みに描かれていることが、この作品の魅力だと思います。
また、言動や行動、表情などが不自然に、大袈裟に描かれることはほとんどなく、とにかく自然で、繊細な描写が多いということも、この作品に引き込まれる一つの理由であると思います。心からおすすめしたい作品です。