めがね

めがね

『めがね』とは、都会からとある島にやって来た女性・タエコが、滞在する宿の主人・ユージや、島の高校教師・ハルナ、タエコを探しに島に来たヨモギ、そして毎年春に島に来ては、少し変わったかき氷屋をしているサクラとのふれあいの中で、固く閉ざしていた心を解きほぐしていくストーリーとなっている。「何が自由か、知っている」をキャッチコピーにして、2007年に公開。主演は小林聡美、監督は萩上直子が務めた。2008年のベルリン映画祭では、パノラマ部門に参加し、日本映画初のマンフリート・ザルツゲーバー賞を受賞した。

tobal4のレビュー・評価・感想

めがね
8

登場人物の描き方が秀逸!映画『めがね』流の自分を見つめ直す方法

「携帯の電波が届かないところに行きたかった」。主人公のタエコは、たそがれることの得意な人々が集まる島にやってきた。島の人々と距離を置いていたタエコだが、徐々に心を開きはじめ、自分自身を見つめ直していく。
『かもめ食堂』で監督を務めた荻上直子と主演の小林聡美が再びタッグを組み、もたいまさこもキーパーソンを演じている。
本作『めがね』は大きな事件や展開はほとんどなく、セリフも少ない。
島の穏やかな空気感やおいしそうな料理が魅力的で、マイペースな登場人物たちの言動が、なんとも言えない雰囲気を醸し出している。不思議な魅力がある映画だ。

この魅力を引き出すのに不可欠なのは、登場人物たちの描き方である。ぜひ注目してほしい。
ほとんどの登場人物の職業や島に来たキッカケなど、バックグラウンドが不明なのだ。
「どこに住んでいて、どんな職業をしている人なのか、なにがきっかけで島に来たのか」という核になる部分が最後まで分からない。だからこそ、それぞれの登場人物と自分に何かしらの共通点があることに気付き、自分の中にある新たな一面を発見できる仕組みになっている。
何度か作品を見ていると、前回まではある登場人物に共感していても、ある時は別の登場人物の何気ないセリフが心に刺さることがある。視聴者が置かれた状況や心情の違いによって、刺さるシーンが変わるのだ。

「それを知ったからって、どうなんでしょう」という物語中盤に出てくるセリフにハッとする。これは、タエコが不思議な魅力を持つ女性・サクラについて、高校教師・ハルナに尋ねたときに発せられたハルナのセリフである。
職業や生い立ちなどで、その人との関係性が変わるのか。そう問いかけられているようだ。
サクラが小豆を炊き、味見をせずに仕上げた時の「焦らなければ、きっと」というセリフは、自信と冷静さを取り戻してくれる。

セリフが発せられた状況に自分は当てはまらないのに、セリフが心に響く。年齢や経験を重ねる度に、同じようなことは増えていくだろう。作品を見返す度に、余計なものを手放し素直な気持ちを取り戻せるから不思議だ。
どんな状況にも寄り添ってくれるこの作品を、多くの人に見てほしい。