宇宙戦争 / War of the Worlds

宇宙戦争 / War of the Worlds

『宇宙戦争』とは、アメリカ合衆国で2005年6月に公開されたSFアクション映画である。
H・G・ウェルズのSF小説『宇宙戦争』を原作としたスティーヴン・スピルバーグ監督作品。
主人公レイは、離婚した妻がボストンの実家を訪ねる間、妻に引き取られ、自分を軽蔑する子供達ロビーとレイチェルを預かった。そんなある日、奇妙な稲妻が町に落ち、地中から巨大な何かが現れて人々を攻撃、街を破壊していく。今まで家族をかえりみなかった父親だったが、必死に子供達を守っていく中で家族を守る父親へと変わっていく。

19580113-mhのレビュー・評価・感想

宇宙戦争 / War of the Worlds
8

ステイーヴン・スピルバーグ監督が久々に本領を発揮した、暗くて怖い映画

ある日突然、地球侵攻を開始した異性生命体。
地中深くに埋められていた、三脚の戦闘マシーンの放つ怪光線や触手の前に、人々は逃げ惑うしかない。

たまたま遊びに来ていた2人の子供を連れ、なんの情報もない中で、前妻の住む街を目指す主人公。
出演はトム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ティム・ロビンスら。

これは決して愛と勇気の感動娯楽映画などではないから、取り扱いは要注意であると思う。
なにしろ、米国の劇場公開のレイティングを決める際にリアルな暴力よりは一段低く見られる「SF的なバイオレンス」表現であるとはいえ、多くの人が気付いているように、「鬼畜」描写が大好きなステイーヴン・スピルバーグ監督が久々に本領を発揮した、暗くて怖い映画なのだ。

製作の成り立ちを聞くと、「ちょっと空いた時間に気軽に作った趣味的な小品」に聞こえてしまうこの作品において、スピルバーグは米国本土を戦場とし、為す術も無く外敵に蹂躙され、恐怖に震え上がり、逃げ惑う人々の姿を、自らが生き残るためには手段を選ばない人間の醜さを、その中で大人たちが、無垢な存在である子供に対して負っている責任を描いているのだ。

主人公の言動は、平均的なハリウッド大作の主人公=ヒーローとは随分異なっていて、格好良さや威勢の良さとは無縁だ。
こういう描写をするところにも、作り手の中途半端ではない真剣さをみることができると思います。

いつもは緩急ある演出で、サスペンスを盛り上げるのが巧いスピルバーグが、いつになくシリアス一本調子であるのも、娯楽映画のバランスとしてはどうかと思いますが、映画の狙いがそこにあるのだから致し方ないだろう。

違う言い方をするならば、これは「原作を踏襲した一応のハッピーエンディングも嘘臭く見えるほどの圧倒的なまでの負のエネルギーが、スピルバーグ一流のサスペンス・テクニックと共に炸裂する、イビツな娯楽イベント映画なのだ。

ポスト911の世界において、最も盛大にそのトラウマをぶちまけて見せた作品であり、つまらない駄洒落承知でいうならば「悪夢との遭遇」だ。
三脚戦車がブォーッと音を立てて、のし歩く姿を遠景に見ながら、何も出来ない無力感。あの光景。

光のシャンデリアとは、音楽でコミュニケーションをとったが、あの異星人のマシーンはコミュニケーションを拒絶する。

一聴してその声とわかるモーガン・フリーマンのナレーションは、圧倒的な力で相手をねじ伏せるのではなく、異質なもの同士が、長い時間をかけて共存する術を学ぶことにこそ解決の糸口があるのだと語るのだ。

あれだけの科学力を持つ異星人が、あんなことを見逃すのはおかしいなどというのはナンセンス。
あれだけの軍事力を持つ米国が、テロを壊滅させることができないがごとく——–。

普通の民間人である主人公の視点を徹底して貫く映画の構造は、先行したシャマランによる異星人侵略SF映画「サイン」も同様であったが、あちらの作品での異星人というのは、単なるギミックであって、それ以上のものではなかった。

表面的には、HGウェルズの原作に忠実なこの作品は、そういう狙いすました目新しさではなく、もっと本質的に、他の映画では感じたことの無い恐怖を体感させてくれる。
もちろん、スピルバーグのテクニックは本物だから、それに翻弄されるのは、実に楽しい。

これが「ちょっとスケジュールが空いたから」と、1年足らずの間に撮影され、公開された作品だとは、にわかに信じられないのだ。
早撮りスピルバーグ、恐るべし。