葬送のフリーレン / Frieren: Beyond Journey's End

『葬送のフリーレン』は、山田鐘人原作、アベツカサ作画の漫画作品。『週刊少年サンデー』にて、2020年より連載が開始されている。「マンガ大賞2021」大賞や「第25回手塚治虫文化賞」新生賞を獲得するなど、さまざまな賞を受賞している作品である。物語は、魔王を倒した勇者一行のその後を描いたファンタジー作品で、主人公は魔法使いでエルフのフリーレン。魔王を倒すための10年間の冒険が終わり、勇者パーティーは解散。1000年以上生きるエルフのフリーレンにとっては、短い時間であったが、50年後に再会した勇者ヒンメルは年老いており、寿命により亡くなる。ヒンメルの死をきっかけに、人を知ろうともしなかったことに気付いたフリーレンは、人を知るための新たな旅に出る。旅の道中で出会ったフェルンという少女を弟子として仲間に引き入れ、さまざまな出来事を乗り越えながら、フリーレンはなにを思うのか。ほのぼのとしたシーンから敵との戦闘シーンまであり、引き込まれる、人の死について考えられる作品となっている。

589_____のレビュー・評価・感想

葬送のフリーレン / Frieren: Beyond Journey's End
10

エルフと人間の時間感覚のズレが生み出す感動

この物語は勇者一行と、その仲間であるフリーレンが魔王を倒したところから物語が始まる。
魔王を倒したのにあまり嬉しそうでない雰囲気で始まるが、この物語を読む上で誰もが意識させられるのが、作品の中で流れる時間である。
また、人間である勇者たちとエルフであるフリーレンの時間感覚のズレがこの物語のキーポイントだ。
それは初めに勇者たちが五十年に一度の流星群を眺めている時に主人公であるフリーレンが「五十年後、もっと綺麗に見える場所知ってるから、案内するよ」と言った時に見せる少し悲しげな勇者の表情や、第一話の始まりの会話からもひしひしと伝わってくる。

勇者が死んだ時に涙を流していないフリーレンは、葬儀に参列した人からそれを指摘される。
「だって私この人のこと何も知らないし」「たった10年一緒に旅しただけだし」という言葉とともにフリーレンが涙を流す。
何千年以上も生きるフリーレンにとって、人間の一生はほんの僅かな時間に過ぎないのである。
勇者の死をきっかけにして、人間についてもっと知ろうと決意したフリーレンは、勇者一行の仲間の弟子であるフェルンと、人々が天国と呼ぶ場所オレオールを目指して旅をすることになる。

この物語はフリーレンが人間と人間が持つ感情を理解しようと決意する第一話から始まり、旅先でのフリーレンを取り巻く人間との関係が細かく描写されている。
フリーレンは気付いているのかわからないが、フリーレンの中で一瞬である人との関わりが、フリーレンの行動や感情の変化にとても大きな影響を与えている。
フリーレンは魔族をとても嫌っていて、その理由は魔族に人間のような感情はなく、躊躇いなく人間を殺す点にあるが、人間の感情を理解できていないという点でフリーレンと重なるのがとても切なかった。

戦闘の描写では、魔法の相性というものも重点が置かれており、一概に魔力が多い方が強いわけではないというのが、読んでいて展開を予測する楽しさを生んでいてとても面白かった。
フリーレンは人間との関わりは一瞬だと言っていて、自分は何も人間についてわかっていないと卑下する。
しかし旅先で会った人のことを細かく覚えていたり、また、一緒に旅を続けるフェルンや他の仲間を気遣ったり、その人のことを理解しようとする姿は切なげであるが心温まるものも多い。