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儚い宝石たちの陰影
主人公を含め、登場人物たちはなんと宝石なんです。舞台は遥か未来、かつて人間と呼ばれていたものが、肉は海の底に沈み、魂は月に登って、骨は地上で宝石になってしまった世界です。宝石たちはそれぞれの硬度にもよりますが、衝撃で簡単に壊れてしまうような、脆くて儚いモノとして描かれています。しかし、どんなにバラバラにされても決して死ぬことはありません。
宝石たちは月からの襲撃を受けており、月人たちは宝石を襲ってバラバラに砕いては、装飾品や武器として加工するために回収して月に持ち去ってしまいます。宝石たちは月からの襲撃を返り討ちにしつつ、地上で過ごしています。
主人公は美しい色を持っていますが、最も硬度が低くて壊れやすい宝石です。その壊れやすさが故に、月人に立ち向かう事すら出来ずにいました。
巻が進むにつれ、主人公が強くなっていき、海と月と宝石たちの謎も解明されていきます。ただ一巻の頃の、弱い自分が嫌で変わろうとするかわいらしい主人公が、変わって行くと言うよりもむしろ失われていってしまうと言えるような展開に寂しさも感じます。
登場人物たちは性別を感じさせない、淡々とした線で描かれており、特徴のある陰影表現が画面にメリハリを持たせています。絵も話も美しい作品です。