生涯をたった一つの船の中で
物語は主人公の親友マックス(プルイット・テイラー・ヴィンス)を語り部として幕が開く。
楽器屋を訪ねたマックスは、そこで一枚のレコードと再会する。
このレコードには、かつての親友ピアニストの1900(ティム・ロス扮する主人公の名ナインティーンハンドレッド)の貴重な一曲が収められていた。
1900は、1900年に豪華客船の中でピアノの上に置き去りにされた赤ん坊だ。
機関士のダニー(ビル・ナン)に拾われ、船員達に愛されて育った1900は8歳で再び天涯孤独となる。
そんな幼い1900が生まれて初めて奏でるピアノは彼の健気で切なげな気持ちが表現されていて、映画を観る側の心を一気に惹きつけてしまう。
そんな愛らしいシーンの後に続くのは、もうすっかり過去の遺物となった豪華客船ヴァージニアン号の変わり果てた姿とそこにダイナマイトを運び込む作業員達の姿。
その取り壊される寸前の船に1900が乗っているとマックスは確信する。
かつての豪華客船ヴァージニアン号での1900とマックスは親友として素晴らしい日々を送っていた。
やがて主人公にも淡い恋心が芽生える。相手の女性を目で追いながら奏でるメロディは限りなく壮大で美しい旋律だ。
恋をきっかけに船を降り新たな人生をと決めた1900だが、いよいよという段階でふと目の前のニューヨークの街を眺める。
この時の彼の目に映った景色は夢の新天地アメリカを目指して船旅をする希望に満ち溢れた乗客達とはまるで違ったものが映し出されていた。
過去と現在の時間の流れを容赦なく描いていくドラマは、音楽はもちろんの事、登場人物においても実にアーティスティックに描かれている点も見どころだ。
映画の音楽を手掛けたエンニオ・モリコーネはニューシネマパラダイス等で数々の賞を受賞した有名なイタリアの作曲家である。
本作品は2020年にイタリア完全版として40分以上の未公開シーンが組み込まれた修復版も公開されている。
人物の心の深いところまでを読み解いていくなら、こちらも必見だ。