これぞ新海誠。
「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。」というキャッチコピーが印象的なこの作品は、アニメーション監督の新海誠氏が2007年に発表したものだ。
この作品はやれ鬱になるだの、やれ死にたくなるだのと散々言われてきたが、私の目にはそうは映らなかった。
話の内容をざっくりまとめると、両想いだった二人の心の距離が環境の変化によって離れていく、俗に言う「切ない」物語だ。 やはりラストシーンが最も賛否の別れるところであるが、私にはどうしてもそれが悲しい結末とは思えなかった。
秒速のラストシーンは、新海氏を一躍有名にした『君の名は。』とは真逆の最後を迎えるのだが、これこそ新海節が最も光る終わり方だと確信している。
この作品は、いつも心の隅に「彼女」の欠片を抱えていた青年が、長い時間をかけてようやく前を向いて歩きだす、そういう話なのだ。
恋は成就してこそハッピーエンドだと考える人には、あまりしっくりこない作品かもしれない。
自分では過去のこととして割り切ったつもりでいても、無意識のうちに「彼女」を探している。取り留めのない想いの行き場をいつも探して、青年は日々を生きている。しかしある日、その思いは本当に過去のものになってしまっていたことに気が付く。
だからこそ、最後のシーンは「あれ」がいいのだ。
天門氏のピアノの旋律が美しく世界を彩り、まるで文学作品のような登場人物たちの言葉に、きっとあなたも引き込まれることだろう。
最後のシーンはぜひ、自分の目で確かめてみてほしい。