天国大魔境 / Heavenly Delusion

天国大魔境 / Heavenly Delusion

『天国大魔境』(てんごくだいまきょう)とは、文明が崩壊した後の世界を生き抜く少年少女たちが世界の謎を解き明かしていく様を描いた、石黒正数による漫画作品。2019年には高名な漫画賞である「この漫画がすごい!」でオトコ編第1位に輝いている。
未曽有の大災害で人類文明が崩壊して15年。外界から閉ざされた施設で暮らすトキオは、「外の世界に行きたいか」とのメッセージを受け取り戸惑う。異形の怪物が徘徊する外の世界では、キルコという少女がトキオと同じ顔をしたマルと共に“天国”目指して旅を続けていた。

meefow4618のレビュー・評価・感想

レビューを書く
天国大魔境 / Heavenly Delusion
10

新時代SFの新境地!2つの世界が交差した先に見えるのは天国か、それとも…

『それでも町は廻っている』の著者である石黒正数氏が手がけるこの漫画『天国大魔境』は2018年から連載を開始したSF漫画だ。
未曾有の大災害により現代文明が破壊された世界で「天国」と呼ばれる場所を探し旅をする若者『マル』と『キルコ』。
一方、外界と隔絶された施設で暮らす少年少女たち。この2つの世界は物語が進むにつれリンクしていく…。
石黒氏の漫画の特徴はなんといっても物語の重厚さにある。
一見なんてことない会話も、人物も、建物も、そのページ全てに意味があるように思えてしまう。
登場人物のあっけらかんとした態度や、コメディチックな会話の奥には、濃厚なミステリーが隠されている。
一度手にとったら最期、事件が起こり、謎が明かされ、世界が広がっていく様に一喜一憂し、気がつけば深く長い大魔境へと足を踏み入れてしまうのだ…。
漫画を読む読者が、物語全体を把握し、作中のキャラクターが知り得ないことまで知れてしまうことを「神視点」と呼ぶことがある。
神様が天界から下界を見渡しているように、読者は漫画を読んでいる。
読者は常に物語を隅から隅まで観察して、謎を解き、ストーリーの先を読んで、主人公たちの一歩先を行こうとする。
しかしこの漫画に関しては、それは難しいだろう。
ストーリーの展開、伏線の貼り方、明かし方の巧妙さはさすがとしか言いようがなく、「神視点」を持ってしても、我々はただ2つの世界に生きる少年少女の行く末を見守る事しかできないのだ。
ゆっくりと、着実に魔境を進む主人公たちと、歩幅を合わせて歩く私たち読者がたどり着く先は、天国か、それとも…。