封仙娘娘追宝録(封娘)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『封仙娘娘追宝録』(ふうせんにゃんにゃんついほうろく)とは、ろくごまるにによるライトノベル。『水滸伝』に着想を得た作品で、人間界に散らばった仙人の手による道具・宝貝の回収劇を描いている。長編シリーズが全11巻、『ドラゴンマガジン』で連載された短編シリーズが全5巻という内容で、90年代のライトノベルの中でも特に人気の高い作品の1つ。略称は『封仙』または『封娘』。
人間界に726個の宝貝をバラ撒いてしまった見習い仙人の和穂は、唯一逃亡しなかった意志ある宝貝・殷雷と共に、宝貝の回収に人間界へと赴く。

『封仙娘娘追宝録』の概要

『封仙娘娘追宝録』(ふうせんにゃんにゃんついほうろく)とは、ろくごまるにによる日本のライトノベル。1995年から始まった長編シリーズが全11巻、『ドラゴンマガジン』で連載された短編シリーズが全5巻という内容になっている。略称は『封仙』(ふうせん)または『封娘』(ふうにゃん)。
同年代のライトノベルの中でも特に人気の高い作品の1つだったが、作者の健康上の理由による発刊スピードの遅れなどにより、アニメ化などのメディアミックスはほとんど行われなかった。イラスト担当のひさいちよしきによる読み切り漫画が『ファンタジアバトルロイヤル』の2000年3月号増刊に掲載されたが単行本化はされておらず、幻の作品となっている。

『水滸伝』に着想を得た作品で、物語冒頭の108の魔星が飛び去るシーンを読んだろくごまるにが「これからこの魔星を回収する冒険が始まるのだな」と感じたもののそうならないことに拍子抜けし、「その方が絶対におもしろい」というのが発想の根幹となっている。
このため世界観は古代中国となっており、仙人や彼らが作ったマジックアイテムである宝貝(ぱおぺい)といった摩訶不思議な存在が登場する。これは当時定番だった西洋ファンタジー的な世界観の作品とは異なる大きな魅力となったが、文芸評論家の榎本秋は「本作が得た人気は、世界観の目新しさだけでなく、作者の言葉廻しや作風によるところが大きい」としている。

見習い仙人の和穂(かずほ)は、ある時半ば事故のような形で人間界に726個もの欠陥宝貝をバラ撒いてしまう。この時、武器でありながら「情に脆い」という欠陥を持つ意志ある宝貝・殷雷(いんらい)は「あの見習い仙人がかわいそうだ」と感じて逃亡しなかったが、大量の欠陥宝貝の存在は人間界の在り方を完全に変えてしまうことが予想された。
仙人たちは「それも仕方のないこと」と結果を受け入れようとするが、納得できない和穂はさらなる混乱を防ぐために自らの仙術を封じた上で、殷雷をお供に欠陥宝貝の回収に赴く。

『封仙娘娘追宝録』のあらすじ・ストーリー

欠陥宝貝の逃走

欠陥宝貝を追って旅を続ける、和穂(左)と殷雷(右)。

赤ん坊の頃に仙界に紛れ込み、仙人の龍華(りゅうか)に育てられた和穂(かずほ)は、15歳になる頃には見習い仙人としてそれなりの仙術を使えるようになっていた。龍華は宝貝(ぱおぺい)という仙術を利用して作るマジックアイテムの匠として仙界に知られる人物だったが、豪快かつ大雑把でかなりの数の失敗作も作っており、「道具として使うには危険過ぎる」と判断した727個を“欠陥宝貝”として葛籠に封じていた。
ところがある日、急な来客、龍華のずぼらさ、和穂のうっかりなどの条件が重なった結果、葛籠が解放されてしまう。意志を持つ欠陥宝貝たちは一斉に逃走し、「自分たちに欠陥など無い」、「仙界に留まれば再び封じられてしまう」と考えて人間界へと脱走してしまう。この時葛籠に封じられていた意志を持つ宝貝・殷雷刀(いんらいとう)は、武器でありながら「情に脆い」という欠陥を持ち、「これだけの事件を起こしては、あの見習い仙人は無事ではすまないだろう。自分が残れば多少は申し開きもできるのではないか」と考えて自分のみ葛籠の中に留まった。

宝貝という超常的な道具がバラ撒かれたことで、人間界はそれまでの形とは全く異なるものへと変貌してしまうことが予想された。多くの仙人が「仕方のないこと」とこれを受け入れる中、「自分の失敗のせいでそうなった」と納得できない和穂は、これ以上の混乱を生み出さないために自らの仙術を封じた上で欠陥宝貝を回収させてほしいと志願する。
この願いは聞き届けられ、和穂は仙術を封じられ、ただの15歳の少女として欠陥宝貝の回収に臨む。龍華たちから和穂の護衛を依頼された殷雷は、「もし欠陥宝貝の回収が完了したら、以後自分に自由を与える」という条件でこれを引き受け、和穂と共に人間界へと赴くのだった。

人間界の旅路

人間界へと向かった和穂は、人の姿を取ることもできる殷雷と共に旅をしながら、欠陥宝貝を探して旅を続ける。欠陥があるとはいえ、宝貝たちには「自分を誰かに使ってほしい」という本能があり、力を欲する者、人の身に余る欲を果たそうとする者の下に現れては大きな事件を起こしていた。
時に殷雷を遥かに上回る力を持つ武器の宝貝と戦い、時に限りなく仙人に近い力を振るう宝貝を相手に逃げ惑い、知恵と工夫でこれらの回収を進めていく和穂と殷雷。そんな2人は、やがて人間界で仲間や友人を増やしていく。

和穂と同年代の職人一族の娘である柳梨乱(りゅう りらん)。
宝貝によって過去の世界からやってきた、“村長代理”こと張良(ちょうりょう)。
龍華に瓜二つの姿を持つ女盗賊・夜主(やしゅ)。
殷雷と同時期に作られた武器の宝貝・恵潤刀(けいじゅんとう)と静嵐刀(せいらんとう)。
人の神経を逆撫ですることを好む織機の宝貝・流麗絡(りゅうれいらく)。

特に恵潤と再会し、彼女が味方になってくれたことを殷雷は喜ぶが、それは「同格以上の力を持つ宝貝相手に戦い続けた結果、自分が間もなく完全な機能停止に陥る」ことを感じていたからだった。殷雷はこの事実を必死に隠し続けるが、ある時ついに和穂に知られてしまう。

和穂の死と殷雷の破壊

和穂たちが旅を続ける中、流麗は「和穂たちの欠陥宝貝回収がこれまでうまくいっていたのは、彼女たちの実力や幸運だけでは説明がつかない。何者かの作為がある」と分析する。果たしてそれは当たっており、鏡閃(きょうせん)という人物が彼女たちの欠陥宝貝の裏で暗躍を続けていた。
殷雷の体を治すことのできる宝貝を求めてとある村を訪れた和穂たちは、ここで轟武剣(ごうぶけん)という欠陥宝貝に襲われる。轟武は欠陥宝貝として封じられる前の殷雷と因縁があり、彼に復讐する機会を虎視眈々と狙っていたのだった。恵潤たちが動けない中、傷だらけの殷雷は轟武によって打ち砕かれ、「理由は分からないが、自分の復讐に協力してくれた鏡閃という男に頼まれた」として和穂も致命傷を負う。

轟武自身はその場にあった宝貝を使って和穂が倒すも、彼女もそこで力尽きる。和穂との合流を目指していた梨乱と夜主が駆け付けた時には、その場にあったのは和穂の遺体と、殷雷と轟武の残骸だけだった。
悲嘆に暮れる梨乱だったが、「自分が殷雷を直して、欠陥宝貝の回収を成し遂げる」と宣言。龍華たちは回収の旅の途中で殷雷が力を使い果たすことを見越しており、その時のための修復の材料となるものを予め彼に持たせていたのだった。しかし梨乱が殷雷の修復に取り掛かる前に、突如として和穂の遺体が姿を消す。全ては、和穂を使って龍華への復讐を目論む鏡閃の壮大な計画だった。

封仙娘娘の伝説

鏡閃はもともと仙人だったが、人間に恋をして仙界を捨てた人物だった。しかし欠陥宝貝の介入により人間界の歴史そのものが変わってしまい、鏡閃が愛した家族もその子孫たちも最初からいなかったことになってしまった。鏡閃は「自分が家族を失ったのは、欠陥宝貝を作った龍華とそれをバラ撒いた和穂のせいだ」と2人を恨み、“和穂の肉体を奪い、これを助けようとして現れるだろう龍華を殺す”という計画を立てたのだった。
仙界でもこの事態は重く受け止められ、龍華は「封仙娘娘と謳われたお前の手で、和穂ごと鏡閃を抹殺しろ」と命じられて人間界に赴く。「自分のせいでお前から大切なものを奪ってしまった」と鏡閃に謝罪した龍華は、和穂だけは許してやってほしいと彼に頼み込むが、これを拒否されるや強力な仙術を駆使して猛然と攻撃。和穂ごと鏡閃を打ち倒し、「人間界でこれほど強力な仙術を使うとは」と驚いて制止にかかる見届け役の仙人たちまでも殺害する。

その後も龍華は討伐にやってくる仙人を次々と抹殺し、鏡閃や欠陥宝貝たちをも超える人間界最大最悪の脅威として君臨する。危ういところで龍華の攻撃から逃れ、鏡閃が「自分のせいなのか」と戸惑う中で肉体の支配権を取り戻した和穂は、梨乱の手で修繕された殷雷と再会し、仲間たちと共に師を止めるために動き出す。
人間界と仙界の力を結集し、和穂の手によってついに龍華は討ち取られる。それでも彼女の大暴れによって人間界はこれ以上ないほど荒廃し、多くの仙人もまた命を落としていた。実は龍華のこの行いは、「過去からの渡航者である張良を本来の時代へと戻し、彼の意志で歴史をやり直す」ことを前提としたもので、この歴史における自分の大暴れも“無かったことになる”のを織り込んだものだった。

これにより仙界の仙人たちの間には「龍華に関わるとろくなことがない」、「和穂は世界の救世主である」という認識が生まれ、人間界にも漠然としたその意識は残り、和穂の旅が今までのものよりはいくらかやりやすくなる。全ては「和穂に無事に戻ってほしい、自分にできることはこれくらいしかない」という龍華の母心が起こした大騒動だったのである。
張良が過去へと戻ったことで歴史はやり直され、鏡閃の家族と子孫たちも蘇る。復讐する理由を失った鏡閃は和穂の肉体から離れ、愛する者たちの下へと戻っていく。新たな歴史の中でも殷雷と共に欠陥宝貝の回収の旅を続ける和穂は、道端で龍華が好きな花を見つけ、「私は師匠に見守られている」と微笑むのだった。

『封仙娘娘追宝録』の登場人物・キャラクター

主要人物

和穂(かずほ)

本作の主人公。赤ん坊の頃に捨てられ、偶然から仙界に紛れ込み、龍華に拾われて育てられた。
優しく温厚、世間知らずでおっとりとした少女だが、一方ですさまじいまでの意志の強さを持ち、必要と状況に応じてはしばしば自分の身も顧みない行動に出る。「眉が太い」とバカにされて涙ぐむなど、年相応の娘らしい一面も持つ。

殷雷(いんらい)/殷雷刀(いんらいとう)

龍華が作った刀の宝貝。殷雷刀が正式な名前だが、作中では殷雷と呼ばれることが多い。意志を持ち、刀の状態では持つ者の体を操って達人級の動きができる他、自分自身が人の姿に変身することもできる。刀の宝貝でありながら情に脆く、敵に悲しい過去があることを知ると勝手に情けをかけて戦闘放棄する悪癖を持ち、これが理由で欠陥宝貝とされた。
本人は武器の宝貝としてこの悪癖を指摘されることを嫌がっており、普段は無頼に振る舞っているが、生来のお人好しな気質を隠せていない。本来宝貝は食事を必要としないが、食道楽なタイプらしく、何かと美味しそうに食事するシーンがたびたび描かれている。

仙界(せんかい)

龍華(りゅうか)

「宝貝造りの名人」として知られる仙人にして、和穂の師匠かつ育て親。豪胆で豪快で豪奢で豪放な人物で、大雑把で細かいことをあれこれと考えるのは苦手。
駆け出し仙人だった頃は様々な事件を解決し、「封仙娘娘」として名を馳せていた。727個の欠陥宝貝の制作者でもある。

BOTAnNABE
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