劇光仮面(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『劇光仮面』(げきこうかめん)とは、特撮の魅力に取り憑かれた若者が歩む愚かしくも気高い求道と友情の日々、そして不可思議な事件を描いた、山口貴由の漫画作品。
特撮美術に魅入られ、そこに込められた創作者の想いに触れることを喜びとしていた実相寺二矢は、友人である切通昌則の葬儀で大学時代の仲間たちと久々に再会する。切通の遺言で、彼が製作した着ぐるみ「ゼノパドン」を介錯してほしいと頼まれた実相寺は、学生時代に仲間と共に作った改造着ぐるみ「空気軍神ミカドヴェヒター」を再びまとうこととなる。

特美研の仲間の1人。現在は大学でポストドクター(博士研究員)を務めている。飛び級で大学に入ったため、実相寺の仲間内ではもっとも若い。
特撮自体は普通に好きだが、実相寺や切通ほどディープなファンというわけでもなく、2人の熱意には時々困惑した様子を見せる。それでも馬鹿にするようなこともなくしっかり話を聞いており、先輩として相応の敬意を抱いている。

成田一縷 (なりた いちる)

特美研の仲間の1人。有名な特撮美術の造形師である成田優作の孫娘。その縁から特撮に関する様々なコネや情報を持っており、学生時代は切通を羨ましがらせていた。
聡明な女性で、情に厚く、それでいて実相寺や切通の持つあまりにディープな特撮愛にもついていける珍しい女性。実相寺は大学時代から彼女を気にかけていたが、「人生における大きなマイナスを背負った自分では伴侶を幸せにできない」とも考えており、どこか名残惜しそうにプロポーズされたことを報告する一縷に「君なら幸せになれる」と言って送り出している。

藍羽ユヒト(あいば ユヒト)

クライムファイターとして注目されている青年。生まれつき筋肉のリミッターが感情次第で外れやすい体質で、これが原因でトラブルを重ねてきた。
老いてなおかつて演じた正義のヒーローとしての矜持を貫こうとする岩倉芯から覆面ヴァイパーの仮面を贈られ、「自分も岩倉のように日常においてもヒーローでありつづける人間になりたい」と考えるようになる。

『劇光仮面』の用語

劇光仮面(げきこうかめん)

戦後間もない頃、好き放題に狼藉を働く米兵を闇討ちして回った元特攻隊員。顔に旭日旗の模様を描いた仮面をつけていたことから“劇光仮面”の異名で呼ばれていた。

劇光服(げきこうふく)

「特撮のヒーローの精神により深く触れるためには、スーツはただの着ぐるみではなく、作中の戦闘能力を再現したものであるべきではないか」との発想から実相寺たちが作り出した、特撮ヒーローや怪獣を模したスーツもしくは着ぐるみ。防刃機構や圧縮空気を利用した攻撃用ギミックなどを組み込んであり、暴漢相手の護身用としては過剰なほどの戦闘力を持つ。
名前の由来は、戦後間もない頃に現れたという劇光仮面から取られている。

ヒーローレイヤー

コスプレじみた服装と覆面で正体を隠し、街の美化や暴漢の制圧、警察への通報などを行う人々の総称。アメリカで発祥した文化で、「スーパーヒーローズ・アノニマス」と呼ぶこともある。他の国ではあまり見られないが、作中では日本にも同様の存在が相当数いることとなっている。

『劇光仮面』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

切通「その“想い”は確かに“在る”もので、“あり得ない”ものじゃない」

特美研の仲間たちを前に、切通は「科学的に考えれば、特撮作品に登場する怪人や怪獣、ヒーローはあらゆるスペックがおかしい。あり得ない存在である」との分析を紹介したベストセラーの本を手に、「この著者を“あわれ”だと思わないか」と語り掛ける。
スフィンクスだってあり得ない生物だ。しかしエジプトの人々は「そういう存在が確かにいる」と信じ、確かな畏怖や願いを込めてこれを崇め、それを日常の一部としていた。重要なのはその実体ではなく、そこに向けられた想いが本物かどうかであり、それこそが文化の源たるものなのだ。

「その“想い”は確かに“在る”もので、“あり得ない”ものじゃない」
静かに、しかし力強くそう言い切る切通の言葉は、本作における“特撮への憧れ”を端的にまとめたものとなっている。

実相寺「僕らは変身できるんだ。劇(はげ)しい光に包まれて…」

初めて劇光服を着込んだ中野は、何気ない発言からトラブルとなってしまったアメフト部員のタックルを完全に押さえ込んだことで、いつしか自分が光に包まれて特撮ヒーローそのものになったかのような感覚を覚えていた。興奮しながらそれを報告する中野に対し、特美研の仲間たちがそれぞれに反応を見せる中、「本物のヒーローになったかのような神秘体験」にもっとも興味を示したのは実相寺だった。

「僕らは変身できるんだ。劇しい光に包まれて」
そう語る実相寺の鬼気迫る顔に、破滅の予感を覚えてしまう美しくも恐ろしいシーン。

実相寺「やっていけると思うよ、君だったら」

切通の葬儀のためにやってきた一縷は、見送ってくれた実相寺に、同僚からプロポーズを受けたことを報告する。さらに続けて「実相寺や切通ほどではないが重度の特撮オタクである自分が、そういったものに興味の無い普通の男と幸せな家庭を築けるだろうか」と尋ねられた実相寺は、わずかな逡巡の後に「やっていけると思うよ、君だったら」との言葉を贈る。
実相寺は学生の頃から一縷に惹かれていた。しかし有罪判決を受けた自分が彼女を幸せにできるとは思えず、どこか止めてほしがっているようにも見える彼女に背を押す言葉をかける。本作の主要人物が大人であることを読者に強く印象付ける、ドラマのようなやり取りである。

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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