天幕のジャードゥーガル(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『天幕のジャードゥーガル』とは、13世紀ユーラシア大陸でモンゴル帝国を翻弄した魔女「ファーティマ」の生涯を描く漫画。トマトスープによる作品で、実在の人物「ファーティマ・ハトゥン」をモデルに描かれる。秋田書店のWeb漫画サイト「Souffle(スーフル)」に掲載された。
珍しい題材と緻密な描写、残酷な展開でも読みやすいポップな画風で人気を博し、「Apple Books2022年ベストマンガ」の歴史フィクション部門や、宝島社「このマンガがすごい!2023」オンナ編第1位を受賞した。
『天幕のジャードゥーガル』の概要
『天幕のジャードゥーガル』とは、13世紀ユーラシア大陸でモンゴル帝国を翻弄した魔女「ファーティマ」の生涯を描く漫画。トマトスープによる作品で、実在の人物「ファーティマ・ハトゥン」をモデルに描かれる。秋田書店のWeb漫画サイト「Souffle(スーフル)」に掲載された。
珍しい題材と緻密な描写、残酷な展開でも読みやすいポップな画風で人気を博し、「Apple Books2022年ベストマンガ」の歴史フィクション部門や、宝島社「このマンガがすごい!2023」オンナ編第1位を受賞した。「このマンガがすごい!」オンナ編で歴史物が1位を獲得したのは史上初のことだった。
『天幕のジャードゥーガル』のあらすじ・ストーリー
知は力
13世紀、イラン東部の都市「トゥース」から物語ははじまる。とある学者の家族のもとに、シタラという奴隷の少女が連れてこられる。シタラの可愛らしい顔立ちを見込んだ奴隷商人は、高貴な身分の人々に仕える教養ある奴隷にするため、シタラを学者一家に託す。
しかしシタラは母と暮らした家に帰りたがっており、価値の高い奴隷になるための勉強を拒絶していた。そんなシタラを見ていたひとり息子のムハンマドは、シタラに知識と学問の大切さを教える。ムハンマドに諭されたシタラは、一家の奥様・ファーティマに仕えながら勉強に励むようになる。やがてムハンマドは様々な学問を修めるため遠い街へと旅立っていった。やがて高名な学者となるムハンマドとシタラが顔を合わせたのは生涯でこのときが最後となった。
8年後、イスラム教徒の学問の基礎である神学や、数学、天文学などの学問を学びながら、シタラは幸せに暮らしていた。家にはファーティマの亡くなった夫が残した貴重な本がたくさんあった。エウクレイデスの『原論』もそのひとつだった。古代の数学者が残した、あらゆる学問に繋がる物事の「定理」を証明した本だ。
あるとき、トゥースの街を遊牧民の軍隊が襲撃する。たまにあることだったのでシタラたちは動揺しなかったが、今回ばかりは事情が異なっていた。チンギス・カンを皇帝とするモンゴル帝国の強大な騎馬兵たちが襲い掛かり、街はめちゃくちゃになった。
シタラとファーティマの前に、トルイという皇子が現れる。トルイはなぜか『原論』を探し求めており、他の貴重な本には目もくれず『原論』だけを奪って行った。シタラはファーティマの大切な本を取り戻そうとするが、トルイは兵に命じてシタラを斬り捨てようとする。しかし斬られたのは、娘のように大切にしていたシタラを庇ったファーティマだった。
ファーティマを失って呆然とするシタラは街の女や子ども、職人たちと共に捕虜として連行された。男たちは皆殺しにされ、連行の道中でシタラと同じ家に仕えていた女性たちも死んだ。ムハンマドだけは遠い街で生きていると信じていたシタラだったが、ムハンマドのいた街もモンゴル帝国に襲撃され、女子どもを含めてほとんどの人が殺されたと知ってしまう。
生きる希望を失ったシタラに、別の街で捕虜になっていたシラという少年が声をかけた。シラは言葉を覚えるのが得意で、通訳として王族に取り入ることで前線送りを免れていた。読み書きが苦手だったシラは学者の家の娘(実際は奴隷だったが)であるシタラを仲間に引き入れてさらに出世しようと考えていた。シタラは、シラからトルイが『原論』を奪っていった理由を聞かされる。トルイの妃であるソルコクタニが、『原論』をほしがっていたのだという。「そんなくだらない理由で奥様は殺されたのか」と怒りに震えるシタラは、ひとつの決意をする。憎い仇に笑顔で仕え、誰にも本心を明かさず、知識を武器にモンゴル帝国で生き抜いて『原論』を取り戻すのだ。
シタラは奴隷の出身を隠すため「ファーティマ」と名乗り、ソルコクタニの教育係として仕えることになる。
ふたりの女
シタラがファーティマとなってから8年後、彼女はモンゴルでの暮らしにすっかり馴染んでいた。生活様式や考え方の違いに馴染み、ソルコクタニにも信頼されるようになった。『原論』には毎日のように触れていたが、取り返す目途もたたず、シタラはモンゴルの女になりつつあった。
そんな中、皇帝チンギス・カンが死亡した。本来であれば「炉の主(オッチギン)」である四男・トルイが後を継ぐはずだったが、チンギス・カンの遺言により三男のオゴタイが新皇帝となった。オゴタイは他の兄弟に比べて穏やかな性格で、巨大になった帝国を維持していく内政に向いているとチンギス・カンは考えたのだった。炉の主だったトルイは抵抗することなく兄の即位を受け入れ、他の兄弟も異論は出さなかった。
しかしこの状態に不安を抱いたのがソルコクタニだった。兄弟同士が協力し合っているうちはいいが、権力闘争が起きればモンゴルは内から崩壊してしまう。そう考えたソルコクタニは、シタラに「自分の密偵としてチャガタイのもとに潜入してくれないか」と持ち掛ける。チャガタイは次男で、兄弟の中で最もオゴタイと仲がいい。トルイとオゴタイの間に入り、諍いを起こすとしたらチャガタイだった。
シタラはソルコクタニの手筈に従ってチャガタイのもとへ行こうとするが、手違いが起こってトルイの第六妃、ドレゲネのもとへ連れていかれてしまう。シタラがあらぬ疑いをかけられて困っていたところ、ドレゲネがシタラを「自分の召使いです」と言って助けた。困惑するシタラに、ドレゲネは自身の生い立ちを話す。ドレゲネはかつてモンゴル帝国に吸収され消滅した部族の長の妻だった。愛していた義理の娘はモンゴル帝国に嫁がされ、夫を含めた男たちは反乱を起こして皆殺しにされた。オゴタイの妃となって子どもを産んでからも、ドレゲネのモンゴル帝国への憎しみは消えていなかった。しかし女の身で何ができるわけでもなく、気難しい妃としてオゴタイに反抗するのが精々だった。ドレゲネはシタラと似た境遇だったのだ。
運命的に出会ったふたりの女は、知恵の力でモンゴルに嵐を起こそうと誓いあう。
モンゴルは新たに金国を攻め落とそうとしていた。巻き狩りのように難民を都市に追い込んで囲い込み、攻め落とすのだ。この作戦の要はモンゴル内で最も大きな軍を持つトルイだった。ドレゲネからこの話を聞いたシタラは、この作戦をトルイが成功させれば、その軍事力をよくも悪くも重視したモンゴル内に不和をもたらすと読んだ。
一方、オゴタイの第一妃であるボラクチンもまた、シタラと同じように情勢を読み、モンゴルの将来を案じていた。
知恵の力
モンゴルに不和をもたらそうと画策するシタラは、ちょっとした行き違いの結果、オゴタイの第一妃であるボラクチンに出会う。彼女は長いこと体調が思わしくなく、病床に臥せっていた。シタラはボラクチンと親しい第四妃のモゲに、ボラクチンの容体について相談される。シタラはドレゲネの伝手を使ってペルシア人の医師に話を聞き、ボラクチンの病気が「鉱山のほこり」と呼ばれる鉱物によるものだと判断する。そして「ジャダ石」という解毒作用のある石を使って、ボラクチンの体調を回復させることに成功した。
ボラクチンの信用を得たシタラは彼女のコンプレックスを利用し、トルイ家への不信感を煽る。上手くことを運んだシタラだったが、ボラクチンはドレゲネをひとりで呼び出し、何事か話をしていた。それ以来、ドレゲネはシタラを避けるようになっていく。
モンゴル帝国はトルイ軍が中心となって、見事に金国に勝利した。帝国内は明るい雰囲気が満ちていたが、ドレゲネと距離ができてしまったシタラは「何かがおかしい」と感じていた。そんな中、オゴタイが病に倒れるという事件が起きる。シタラはモゲに相談を受け、その症状が鉱山のほこりによるものだと断定する。当初はシタラとドレゲネが疑われたが、ボラクチンとモゲの信用を得ていたシタラは咎められることはなく、ドレゲネが犯人ということになってしまった。シタラはボラクチンの頼みでジャダ石を使ってオゴタイの治療をする。ボラクチンは「ドレゲネがシタラに濡れ衣を着せようとした」と話した。シタラは本当にドレゲネを信じていいのかわからなくなってしまう。
シタラがドレゲネと会えないまま、さらに事件が起きる。オゴタイの回復の祈祷に参加していたトルイが死んでしまったのだ。ソルコクタニだけでトルイ家を維持していけるわけもなく、トルイ家は急速に力を失うことになった。シタラはドレゲネに会おうと彼女が閉じ込められている天幕へ行くが、そこにドレゲネはいなかった。ドレゲネの周辺でよく会ったカダクという男を頼ろうとするが、カダクの天幕もどこかへ消えてしまっていた。シタラの見えないところで、何かが起こっていた。
オゴタイは無事に回復した。ボラクチンは礼として、シタラに1冊の本を贈る。それはシタラがソルコクタニから取り返そうとしていた、ファーティマが大切にしていた、あの『原論』だった。ボラクチンはドレゲネからシタラがその本を欲しがっていたことを聞いたという。愕然とするシタラに「ドレゲネのことは忘れて、私と共に知恵の力でモンゴル帝国を発展させよう」とボラクチンは勧誘した。生きる目的であった本を取り戻したシタラは「もう復讐はやめて、ここで前向きに生きていくべきではないか」と思う。そのとき、シタラは幼いときに別れたきりのムハンマドのことを思い出した。自分の驕りを自覚したシタラは、ドレゲネに会うために動き出す。カダクを探し出し、ドレゲネの行方を問いただした。そしてカダクが仕えているという、ドレゲネとオゴタイの長男グユクに会うことになる。
『天幕のジャードゥーガル』の登場人物・キャラクター
主人公
シタラ/ファーティマ
『天幕のジャードゥーガル』の主人公で、奴隷の少女。奴隷商人に愛らしい顔立ちを見込まれ、教養を身に着けさせるためにムハンマド少年の家族に託された。当初は母と暮らした家に帰りたがっており、勉強も拒絶していたが、ムハンマドに学問の力を諭されてから勉強に打ち込むようになる。
女の子としては異例の教養を身に着け、奥様のファーティマに仕えて幸せに暮らしていたが、街にモンゴル帝国の軍隊が攻め入ってきたことで運命が狂わされる。大好きなファーティマを殺され、一緒に暮らしてきた家族を皆殺しにされ、捕虜としてモンゴル帝国へ連行された。
シタラは奪われたファーティマの本を取り戻すため、憎しみも怒りも覆い隠してモンゴル帝国内で成り上がることを決意する。「ファーティマ」の偽名を名乗り、次期皇帝の正妃であるソルコクタニの教育係として仕える。それから8年、反乱のきっかけも掴めずモンゴルの女となりつつあったが、オゴタイの第六妃・ドレゲネと出会ったことで再び運命が動いていく。
学者一家
ムハンマド
シタラが仕えた学者一家のひとり息子。シタラに学問の価値を教え、知を力にするシタラの人生の道しるべとなった。
あらゆる学問を収めるため、ニーシャプールの高名な学者の元へ旅立った。のちに高名な学者となるが、シタラとは今生の別れとなった。
ファーティマ
シタラが仕えた学者一家の奥様。学者の夫を亡くし、初等教育の教員資格を持っている伯父を家長に暮らしている。
字は読めないが学問の重要性を理解しており、夫の遺した蔵書を大切にしている。シタラをモンゴル帝国の兵士から庇って死亡した。
シタラはファーティマのために奪われた本を取り戻すべく、モンゴル帝国で知を武器になりあがる。
チンギス・カンの一族
ジュチ
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目次 - Contents
- 『天幕のジャードゥーガル』の概要
- 『天幕のジャードゥーガル』のあらすじ・ストーリー
- 知は力
- ふたりの女
- 知恵の力
- 『天幕のジャードゥーガル』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- シタラ/ファーティマ
- 学者一家
- ムハンマド
- ファーティマ
- チンギス・カンの一族
- ジュチ
- チャガタイ
- オゴタイ
- ドレゲネ
- トルイ
- ソルコクタニ・ベキ
- クビライ
- フレグ
- グユク
- その他
- シラ
- カダク
- 『天幕のジャードゥーガル』の用語
- トゥース
- エウクレイデス『原論』
- モンゴル帝国
- 炉の主(オッチギン)
- 『天幕のジャードゥーガル』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ムハンマド「勉強して賢くなれば どんなに困ったことが起きたって何をすれば一番いいかわかるんだ それは絶対に悪いことじゃない」
- 知を武器にモンゴル帝国で生き抜くことを決意するシタラ
- シタラ「二人でなら嵐も起こせましょう」
- シタラ「ドレゲネ様は守ってくれたんだわ 私たちの秘密を 私たちの怒りを」
- 『天幕のジャードゥーガル』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- シタラのモデルは実在した女性「ファーティマ・ハトゥン」
- シタラの意味は「星」