たかこは、母と暮らすバツイチ45歳。深川から自転車で新大橋を渡り、社員食堂のパートに通う。とくに大きな原因はない。逆にすべてが原因でイヤになっているのだろうか――。このところ、夜にやられて隅田川のほとりで一人、酒を飲む。ところが、だれもいないと思ったそこで、声をかけてきた男がいて――!? ふんばりざかりをふんばる人に、届けたい物語。
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前述の通り、主人公の片岡たかこはバツイチ女性。
同居の母は楽観的&悪気のない自己中で、たかこはしばしば苛立ちを覚えてしまうことも。
そして同時に「この年齢にもなって、母親にイライラするなんて自分は幼い」という自己否定感をも抱いてしまいます。
「自分は世間から置いていかれている」という意識と、それに対しての諦め、空しさ、押し寄せる将来への不安など、たかこの思いは渦を巻きます。
たかこが「更年期と思春期を同時に経験している」と自虐的になるシーンは「だれがうまいこと言えと」と感じながらも妙なリアリティに唸ってしまいたくなるかも。
たかこには中学3年生の娘、一花(いちか)がいます。
一花は別れた夫のもとで生活していたのですが、不登校&拒食症になり、ガリガリにやせ細った姿でたかこの元へ戻ってきます。
かわいい娘のため、手を尽くしたいという気持ちを持ちながら、内向的でふさぎこむような娘とどのようにコミュニケーションを図ればいいのかわからず模索するシーンは母、たかこ、娘という年齢の違う三者のキャラクターがどれもリアルかつ微妙に交わらないまま描き出され、読者も「あるある!」とはがゆさを抱くでしょう。
そんなたかこはある時たまたま耳にしたバンド「ナスティインコ」の音楽に虜になってしまいます。
「変なバンド名だなあ」と感じながら音楽を聴くことで涙をこらえきれなくなってしまったたかこは、「この年齢で年下の男の子に夢中になるなんてどうなんだろう」「ファンは皆若い子で恥ずかしい」などと後ろめたさを持ちながらも、ナスティインコの音楽を聴き、ボーカル・光一くんの声を聴くだけで顔がゆるんでしまうほどの大ファンに!
バンドにハマるなんて初めて、声を聴いてにやけるなんて初めて……
冴えない日常の中でも「周りには言えないけれど、本当に好きなもの」を発見したたかこの、新鮮な生活がはじまっていくのです。
作品の魅力はとにかく「細かい」こと!
大きな風呂敷を広げ、壮大なストーリーが展開する話ではなく、かと言ってきれいな絵と詩的なモノローグで淡々と進む、行間を読ませる系のお耽美漫画でもありません。
・自分に自信が持てず、つい卑下してしまうたかこ
・光一くんのラジオをヘッドホンで聴きながら一喜一憂するたかこ
・散歩から帰ってきた一花に「毎日まいにちどこ行ってるの?危ないわよ?ごはんちゃんと食べないとだめよ?パン食べる?おかしもあるわよ?」と問いかける母
・たかこの母(祖母)の対応に、開きかけた心を閉じ部屋にこもってしまう一花
などなど、描かれるのは「ありふれた家庭のありふれた日常」。
その綿密なリアリティの中から希望が生まれることで、より爽快な読後感が体験できるのです!