運動会の手つなぎゴールは都市伝説?噂の内容や広まった理由をまとめてみた

運動会の「手つなぎゴール」についてまとめました。運動会の徒競走で足の遅い子が嫌な思いをしないよう、足の早い子らがゴール手前で立ち止まり全員揃ったら手をつないで一斉にゴールするというもの。言葉は認知されているものの実際に行っている学校が見つからず、都市伝説ではと囁かれていました。ここではラジオ番組『たまむすび』で調査された内容や、新聞記事やネットで見つけた情報を紹介していきます。

togetter.com

朝日新聞記者

追記:一ヶ月後、『たまむすび』で「手つなぎゴール」検証の続編が放送される。その内容追加

2016年6月13日放送の「手つなぎゴールは本当にあったのか?」で放送された内容。
時系列で簡易まとめ。

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『たまむすび』調べ第二弾「手つなぎゴール」関連の出来事の歴史
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1988年2月17日 朝日新聞朝刊【討論の広場 『豊かさと日本人』】アグネス・チャンが、座談会の中で「例えば運動会なども1位や2位に賞品を出さないで皆で手をつないで歩きましょう。これが公平だと言うのね」と、当時テレビで見たという内容を発言。

1997年7月15日 毎日新聞 1997年の東京都小学校体育連盟の調査として、「5割の学校で能力別徒競走を採用していた」。

1999年10月4日 読売新聞 1997年の東京都小学校体育連盟の調査を引用して「8割の学校が能力別徒競走を導入」。

2000年3月 青木靖・著『祈りを忘れた教師たち』1997年の東京都小学校体育連盟の調査部長だった元・校長の著書で、1997年の調査内容に言及されているが能力別徒競走の記述はない。

2003年6月10日 朝日新聞 新潟版朝刊【運動会は楽しい祭典】新潟県上越市立の小学校校長の発言を交えながら「誰のための運動会か。そんな反省から、ゴール直前で皆で手をつなぎ皆でゴールするという試みが数年続いた」。(たまむすびスタッフが2016年に校長に再取材すると「そんな話は記憶にない」と手つなぎゴールを否定)

2003年10月13日 読売新聞 『教育新世紀 / YOMIURI ON-LINE 「順位づけ」継続求める声多く』というコラムで、1997年の東京都小学校体育連盟の調査を引用して「手つなぎゴール」に言及した。(たまむすびスタッフが、2016年に現・東京都小学校体育連盟会長に取材。当時調査に関わっていた教員「調査は運動会の実施時期で、実施競技の調査は記憶にない」と手つなぎゴールを否定)

これを踏まえて手つなぎゴールの歴史年表を更新(2016.6.26)

ネットで簡単に検索して出てきたものを加えた、現在までの「手つなぎゴール」の時系列を下に箇条書きした。

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ネット検索調べ「手つなぎゴール」の歴史(1)1980年代~1990年代
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1980年代~1990年代 九州の小中学校で「手つなぎゴール」の現象が起きた、と2005年の西日本新聞記事。

1988年2月17日 朝日新聞朝刊【討論の広場 『豊かさと日本人』】アグネス・チャンが、座談会の中で「例えば運動会なども1位や2位に賞品を出さないで皆で手をつないで歩きましょう。これが公平だと言うのね」と、当時テレビで見たという内容を発言。

1990年 部落問題研究所出版の雑誌『部落』42巻で、「手を繋いでゴールすればいいのか」という記述。

1994年 愛知県豊川市の33歳女性の体験談メール「小学生の時、校長先生の方針で競争はほぼ禁止になり、『手をつないで』ではないものの、ゴール直前でストップし、全員が揃ったところで『せーのっ』でゴールさせられた記憶があります」2016年放送ラジオ『たまむすび』より

1996年6月11日 NHK『クローズアップ現代』「競争のない運動会 ~順位をつけない教育改革の波紋~」放送

1997年 東京都小学校体育連盟の調査で都内の小学校の8割が運動会で順位をつけず、中には「手を繋いでゴール」の学校があると記述(調査結果そのものは誰も確認できず) 2003年の読売新聞記事より。

1997年2月17日 朝日新聞朝刊「教育会で広く読まれている専門誌の最近号で、ある大手企業の会長が人から聞いた話として、~全員手をつないでゴールインさせた」

(1997年7月15日 毎日新聞 1997年の東京都小学校体育連盟の調査として、「5割の学校で能力別徒競走を採用していた」)

1998年 雑誌『スポーツSapio』 ビートたけし「今、運動会でも競走しないでみんな手をつないで走るじゃない」

1998年9月24日 参院文教科学委員会で共産党林紀子議員が広島の三次、庄原、福山市の小学校で部落問題と絡めて「手つなぎゴール」があると発言

(1999年10月4日 読売新聞 1997年の東京都小学校体育連盟の調査を引用して「8割の学校が能力別徒競走を導入」)

(2000年3月 青木靖・著『祈りを忘れた教師たち』1997年の東京都小学校体育連盟の調査部長だった元・校長の著書で、1997年の調査内容に言及されているが能力別徒競走の記述はない)

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ネット検索調べ「手つなぎゴール」の歴史(2)2000年~2006年
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2000年 雑誌『正論』コラム 「一部教師の提唱で、競走などを廃止したり、廃止しなくてもスタートラインに差をつけたり、速い子をゴール前でわざわざ立ち止まらせて、遅い子とお手々つないでゴールインといった馬鹿げた運動会をやっている所があるが」

2000年7月 雑誌『日経ビジネス』 コラム「孫が通っていた幼稚園の運動会の徒競走では、園児たちはゴール前で横に並び仲良く手をつないでゴールしていました」

2001年 自民党機関誌『月刊自由民主』「競争で、九十パまでは突力で走らせ、^後はお手々をつないで一緒にゴールするようなことになつてしまった。私が子供ころには、優等赏があり、努力賞があり、運動会で」

2001年2月8日 衆院予算委員会 町村文科相「最近は、ゴール前三メートルのところでみんな手をつないで一緒にゴールインをする」以下、この年の国会では町村文科相による「手つなぎゴール」批判答弁多数。

2001年7月号 雑誌『ミセス』 重松清コラム「今どきの運動会は、~みんなで手をつないで走るかけっこ」

2001年11月27日 参院、自由党森ゆうこ議員「手つなぎゴールとか、実際見ている」

2002年2月26日 日本経済新聞朝刊 ソニー副会長森尾稔氏のコラム

2002年8月22日9月4日合併号 雑誌「sapio」 小林よしのり『新・ゴーマニズム宣言 12』第173章 「反米という作法」「運動会のかけっこは、横一列 手をつないでゴール」

2003年3月25日 参院 自民党有村治子「一部の学校で手つなぎゴールが少なくなったが今もある」遠山文科相「今はそれほどはもうないと思うが、現実にはあった」

2003年6月10日 朝日新聞 新潟版朝刊【運動会は楽しい祭典】新潟県上越市立の小学校校長の発言を交えながら「誰のための運動会か。そんな反省から、ゴール直前で皆で手をつなぎ皆でゴールするという試みが数年続いた」。(たまむすびスタッフが2016年に校長に再取材すると「そんな話は記憶にない」と手つなぎゴールを否定)

2003年10月2日 日本経済新聞夕刊 サントリー相談役津田和明氏のコラム「一部の小学校では、ゴール直前でもう一度横一列に並ばせてからゴールさせていた」

2003年10月13日 読売新聞 『教育新世紀 / YOMIURI ON-LINE 「順位づけ」継続求める声多く』1997年の東京都小学校体育連盟の調査を引用して「手つなぎゴール」に言及(たまむすびスタッフが、2016年に現・東京都小学校体育連盟会長に取材。当時調査に関わっていた教員「調査は運動会の実施時期で、実施競技の調査は記憶にない」と手つなぎゴールを否定)

2004年 雑誌『エコノミスト』 和田秀樹氏「酷い時は運動会の徒競走でさえ手をつないでゴールインさせる」

2005年 小林よしのり『新・ゴーマニズム宣言 15』第225章「格差社会とは何か?」「運動会で横一列でゴールさせられる」

2005年 教育評論家・森口朗 著書で「手つなぎゴールは都市伝説」と存在を否定。

2005年10月 雑誌『エコノミスト』 和田秀樹氏「手をつないでゴールイン~その現場を見たものはいない」

2005年12月29日 西日本新聞新聞 「差別につながると運動会で順位をつけない。手つなぎゴールをする。1980年代から1990年代にかけ、九州の小中学校でそんな現象が起きた」

2006年2月28日 衆院、自民党町村信孝「手つなぎゴールは冗談みたいだがそういうことはいっぱいある」

2006年10月15日 朝日新聞コラム高橋庄太郎「順位つけぬ運動会」風聞の先に「伝聞の形でかなり広まったらしい」

2006年11月17日号 週刊朝日 内館牧子コラム「昨今の手をつないでゴールという運動会」

2006年11月22日 第一次安倍内閣での国会質疑。民主党佐藤泰介「総理らは手つなぎゴールを見たことあるのか」安倍総理らの答弁。「よく結果平等の典型的な例として、手つなぎゴールがある」「実際に見たことないので今後、実例に即した説明にする」

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運動会のあり方の論争は古くからある。大まかにわけて、「平等・公平 VS 競争」の対立になっているのだが、その内容は千差万別。
「どうすれば運動能力が低い子でも運動会を楽しめるのか」という問題意識で、現場の先生たちは様々な方策を模索してきたが、その問題意識自体が、「そうやって運動能力が低い子に合わせていては運動能力が高い子が活躍できずに存分に楽しめなくなる」として批判される。

徒競走で、タイム別・能力別にレースの組み合わせを作るというだけで、「甘やかし」という批判もネットで出ていた。「能力別 VS 身長別」という論争も見た。能力別は単に遅い子への配慮だけでなく、「レースを接戦にして面白くするため」という意味があるのだが、この論争では、この能力別の言い分も大きく理解されていて、能力別徒競走への理解は広がっているようだ。

しかし、徒競走の順位の付け方、表彰の仕方の差は、未だに大きな批判の対象となる。「順位をつけない VS 順位をつける」の論争だ。しかし、ひと言で「徒競走の順位をつけない」と言っても、さまざまな方式があり、それぞれで対立があり、「そこまでは良いけど、それはやりすぎ」などと、運動会における順位と表彰の仕方について人それぞれの「どこまで許せるか」のボーダーもある。

・「賞品をつけない(公平にする) VS 賞品に差をつける」
団塊世代の人たちの運動会では、徒競走で1位になるとノートや消しゴムを貰えたと言って「あの頃は良かった。賞品があったから運動しか出来ない子のやる気が出た」という意見。今はほとんどの学校で着順賞品などないだろう。

・「等旗に並ばせない VS 等旗に並ばせる」
運動会の徒競走では、走り終わった児童は着順ごとに旗の前に並ばせられ、順位ごとにリボンなどが配布されたりする。この時、下位だった児童は並ぶのが苦痛として等旗に並ばせない徒競走の方式が採用される学校もあった。これが大きく報道されると批判の対象になった。

・「一斉にゴールを切る VS 一着がゴールを切る」
徒競走では順位がつくのは当たり前。というのを打ち破るのが「一斉にゴール」という方式。スタートは一緒。走りも全力。しかしゴールも一緒。足の速い子はゴールテープ前で一旦立ち止まり、足の遅い子を待つ。全員揃ったなら「せ~の」と掛け声したり、手を繋いだりして皆でゴールを切るというパフォーマンスをして終える。これは世間から猛バッシングを受けた。いわゆる「手つなぎゴール」として否定的に全国に知られ、「悪しき平等主義」の象徴として国会でも批判され、教育改革が行われた。今では都市伝説としてしか残っていない。

で、『たまむすび』2016年6月13日回では、前回と変わらず、「皆で一斉にゴールをする学校はあったが、手を繋いでないので『手つなぎゴール』じゃない!残念!手つなぎゴールはなかった!」と主張していたが、その結論はやはりおかしい。「手つなぎゴール」で問題視されゆとり批判に利用されているのは、「手つなぎ」要素ではなく「一斉にゴール」の要素なのだ。「手を繋いだか」や「せ~のと声掛けしたか」は、バージョン違いでしかない。

『たまむすび』スタッフは、このように「手つなぎゴール」の定義を厳密に区別をしていた割に、最後になって、アグネス・チャンによる「運動会で1位2位に賞品を出さないで、皆で手をつないで歩きましょう」という過去の発言を取り出し、そこに「徒競走」とも「ゴール」とも書いていないのに関わらず、「手つなぎゴールの新聞ベースの最古」と判定した。それもおかしい。

運動会議論は、「運動ができる子とできない子の差を公平にするか、しないか」が第一にあり、どんな風に「公平にするのか」という第二階層の中の議論の一つとして「順位をつけるか、つけないか」というものがあり、さらに、「順位の付け方」「どうやって順位をつけないのか」という各方式の賛否を議論する第三階層の中で「賞品の有無」「等旗の有無」といったものと並列して「一斉にゴール」というテーマが存在している。「手つなぎゴール」は、この「一斉にゴール」を更に細分化した第四階層のテーマでしかない。

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「一斉にゴール」は本当に100%無しか?

・徒競走で、ゴール前で速い子は一旦止まって遅い子を待ち全員揃ったら手を繋いだりせ~のと声かけたりして一斉にゴールする、という「一斉にゴール(手つなぎゴール)」。
文章だけ読んで簡単にイメージすると徒競走として異常に思えるが、よくよく考えると「そこまで異常か?」と思えてくる。

まず、スタートは一緒。その後、ゴール直前まで児童は全力で走るわけだ。1位がゴールテープを切らないだけ。つまり、徒競走のゴールが、ゴールテープ手前になっただけという話だ。ゴールテープ手前に到着した順位は付けられるし、誰から見ても勝敗は一目瞭然だ。

通常の徒競走と違うのは、
・ゴールがゴールテープ手前
・ゴール到着後、その場で待つ(通常は、着順に等旗に並ばされる)
・レースメンバーが全員揃ったらゴールテープを皆で一斉に切るパフォーマンスをする
という点。

重要なのは、
・順位は必然的に付く
・皆で一斉にゴールテープ切るのは、勝負が終わった後
という点。

「一斉にゴール(手つなぎゴール)」の徒競走とは、「一斉にゴール(手つなぎゴール)」の儀礼付き徒競走と考えると分かりやすい。もしくは、「1位がゴールテープを切らない徒競走」。これでも批判する層は多いだろうが、『たまむすび』で言ってたように「100%否」になるとは思えない。「等旗に並ばない徒競走は有りだけど、手つなぎゴールはちょっと…」とケースバイケースで考えていた層には、「それなら…」と改める人も出そうだが。

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