【演説の達人】口八丁な銀行強盗「響野」の魅力その1

『陽気なギャングが地球を回す』伊坂幸太郎
―嘘を見抜く達人、天才スリ、正確な体内時計を持つドライバー、そして演説の名人。それぞれが個性的な、4人組の銀行強盗が「仕事」をした際に巻き込まれる一連の事件を描いたライトなサスペンス―
先日久しぶりに読み返したところ、4人の内の1人、演説の達人「響野」の魅力にどハマりしてしまったので紹介させてください。

2弾:【演説の達人】口八丁な銀行強盗「響野」の魅力その2
https://renote.net/articles/1492

口からは出まかせばかり、しかし憎めない男

プロフィール
年齢:30~40代
性別:男性
職業:喫茶店「ロマン」経営者(淹れるコーヒーの味は壊滅的)
特技:演説(人の心を掴む、といった類のものではない)
口癖:ロマンはどこだ
配偶者:祥子(夫に辛辣、淹れるコーヒーの味は絶品)

特技は演説ですが、これは人の心をグッと掴んだりするものではなく、一方的に毒にも薬にもならない出まかせを喋り倒し、聴衆を呆気にとらせてしまうものです。
4人組のリーダーであり、学生時代の友人でもある成瀬に「口を開けば嘘しか出てこない」「生まれてこの方、本当のことよりもでまかせを口にした回数のほうが多い」なんて言われてしまうほどのおしゃべり男です。
作中で、まぁとにかく喋る、喋る。
しかも、小さな事を回りくどい例え話にして大げさに言ったりするので登場人物からは煙たがられてばかりですが、彼の出まかせには何故か中毒性があり、クスッと笑ってしまいます。
彼の迷言をいくつか挙げながら、記事を分けつつ、響野という男、そして『陽気なギャングが地球を回す』という作品の魅力を語っていきます。
十年以上も前の作品ですが、お付き合いいただければ嬉しいです。

迷言・迷セリフその1「ロマンはどこだ」

自称、ロマンを追い求める男。
「仕事」の際には必ずと言っていいほどこの言葉をつぶやきます。
自分たちのする銀行強盗にも一種の美学を持っていて、作中で現金輸送車が狙われる事件に対して、

「私たちが求めているのはロマンなんだよ。路地裏の暗い所で現金輸送車を襲い、臆病な運転手を脅して金を手に入れる、そんなやり方が許せるか? 現金輸送車を襲うなんていうのは、陰鬱で、じめじめとした、暗くて残酷な、金の稼ぎ方なんだ。中学生がやるカツアゲとなんら変わらない」

と、自分たちのことを棚に上げつつ、痛烈に批判します。
しかし、話題が自分の飼っている犬のことになると、

「ロマンより犬だ!」

なんて言い出す適当さが響野クォリティ。むちゃくちゃもいいところですが……。

迷言・迷セリフその2「これはコーヒーか?」

響野と奥さんの祥子が営む喫茶店「ロマン」は、4人組の溜まり場にもなっていて、銀行を襲う打ち合わせの場になるのはもちろんのこと、彼らの日常的なシーンの舞台にもなります。

仲間の一人、天才スリの大学生「久遠」が響野の淹れたコーヒーを飲み、酷評します。
お店で出されたものが気に入らなかったとき、これだけズバッとものが言えたら気持ち良いだろうな……。

「最近、響野さん、自分でコーヒーを淹れてないでしょ。祥子さんが作ったコーヒーのほうが美味しい。と言うか、響野さんのは美味しくない」「と言うか、不味い」

これには響野もちょっと気を悪くして反論します。
ただ、この反論もくどい(笑)

「お前に一つ良いことを教えてやる 感じたこと全部を口に出す必要はないんだよ。誰もが心の中で思っているだけならば、世界は平和だ」

流石にコーヒーを不味いと言っただけでは戦争は起きないとは思います。
反論した後、試しに自分でも一口コーヒーを飲んで、口を衝いて出たのが見出しの台詞。喫茶店の従業員として衝撃の言葉ですね。

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