サスペリア(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『サスペリア』とは、1977年に制作されたイタリア映画。イタリアン・ホラーの巨匠ダリオ・アルジェント監督の代表作。日本公開当時、音響立体移動装置(サーカム・サウンド・システム)の導入と、 「決して、ひとりでは見ないでください」というキャッチフレーズが話題となり大ヒットを記録した。ドイツのバレエ名門校に入学したアメリカ人の娘スージー。だが彼女の周りに奇怪な現象や殺人が次々と起こる。やがて彼女は学校に魔女が棲んでいる事実を突き止めていく。

ウジ虫騒ぎのあった翌朝、ダニエルの盲導犬がアルベルト少年の腕に噛みついたという事件が起こる。ダニエルは「訓練された犬だ。子供が悪戯したんだろう」と主張するが、タナー女史は謝罪しないというダニエルをクビにした。その夜、街のビアホールに立ち寄ったダニエルは、その帰り道に盲導犬を連れて人気の無い道に差し掛かると、大人しく忠実な筈の盲導犬が激しく吠えた。「誰かいるのか」と叫び耳を研ぎ澄ますダニエル。すると突然狂ったように盲導犬がダニエルの首に噛みついた。大量に血が流れダニエルは絶命する。

第2の殺人は、人気のない道で誰かが近付いて来るような気配を感じさせ、「誰かいるのか」と叫ぶダニエルと共に盲導犬もその誰かに吠えているように見せている。だが、ダニエルを殺すのはその誰かではなく意外にも忠実な盲導犬だった。「呪い」であるとしか考えられないまさかの展開が、やがて魔女の存在へとつながって行く重要なシーンである。

第3の殺人/秘密を知り過ぎたサラが惨殺

サラはスージーと校内のプールで泳ぎながら、親しい友人だったパットが学校の信じられないことを全てまとめたメモを、彼女から受け取っていたことをスージーに話す。しかしその晩、サラは「メモが盗まれたわ」と慌てた様子でスージーの部屋に入って来た。だがスージーは睡魔が激しく起きようとしない。サラは「1人にしないで」と恐怖に襲われ廊下へと飛び出す。すると何者かが追いかけてくる気配を感じ、屋根裏に上がり込み身を隠そうとした瞬間、突如闇から現れた刃物で腕を切り付けられた。サラは慌てて別の部屋へと逃げ込み必死で鍵を閉じると、サラは高い窓から何とか身を乗り出し何とか逃げようとするが、そこは部屋中に敷き詰められた針金の海だった。抜け出そうともがけばもがく程に無数の細い針金がサラの体に纏わり着いてくる。そしてサラは無残にも刃物で喉を引き裂かれた。

第3の殺人は、呪われた学校の秘密に感付いたパットと親しかったサラが、その秘密をパットから受け継いでしまったために狙われてしまった。サラは冒頭のパットと同じく刃物で殺されるが、針金の海でもがき苦しむという斬新でありながら残酷なアイデアがとても印象的なシーンとなっている。

姿を現した魔女、エレナ・マルコス

誰もいない校長室に忍び込んだスージーは、パットの呟いた言葉を思い出し、青色のアイリス模様に手を掛ける。すると壁の裏に新たな廊下が出現した。延々と続く廊下を恐る恐る歩いて行くスージー。すると突き当たりの部屋から光と人影が見えて来た。覗き込むとそこにはブランク夫人やタナー女史、下男のパブロやアルバート少年がおり、何やら儀式をしている。するとブランク夫人の口から「あのアメリカ娘を殺せ!」と恐ろしい言葉が発せられた。恐怖で後ずさったスージーは何かにぶつかり振り返る。そこにあったのは、サラの無残な遺体だった。悲鳴を押し殺すスージーは別の部屋へと逃げ込むが、その部屋の奥のカーテン越しのベッドから聞こえるのは以前に聴いた校長らしきいびきだった。カーテンの向こうにはベッドに横たわる人影が見える。すると物音で目が覚めた人影は「待っていたよアメリカ娘。この私を殺したいのかい、このエレナ・マルコスを!」とスージーを嘲笑する。スージーは恐る恐るカーテンを開けてみるがそこには誰もいない。その直後、サラの死体が動きだしスージーに向かって襲い掛かってきた。その時だった。雷の光がエレナ・マルコスの身体の輪郭を浮かび上がらせたのだ。それを見たスージーは孔雀の置物の羽根の先でエレナ・マルコスを突き刺した。その途端、ミイラのような外見をした皺くちゃの老女がはっきりと姿を現したのだ。

学校の創設者であり、火事で焼死したとされるエレナ・マルコスが生きている筈が無い。スージーの前に姿を現したエレナ・マルコスの姿に戦慄が走るクライマックスの名シーンである。

『サスペリア』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

アルジェント監督によって描かれた「魔女3部作」における魔女

本作『サスペリア』、1980年の『インフェルノ』、2007年の『サスペリア・テルザ 最後の魔女』の3作はいずれもダリオ・アルジェント監督作品であり「魔女3部作」とされている。本作における“黒の女王”の異名を持つ魔女エレナ・マルコスの正体について、『インフェルノ』や『サスペリア・テルザ 最後の魔女』では、三姉妹の魔女の一人である「溜息の母(嘆きの母)」である事が明かされている。そして『インフェルノ』に「暗黒の母(暗闇の母)」、『サスペリア・テルザ最後の魔女』に「涙の母」が、エレナ・マルコスの姉妹としてそれぞれ登場している。
”魔女3部作”の構想は、英国ロマン派の名文家トマス・ド・クインシーの小説『深き淵よりの嘆息』に書かれている3人の女性をモチーフにしていると言われているが、実際は“三人の母”について言及されているのは『インフェルノ』からであり、本作では全く触れていない。この両作に繋がりが見受けられないことからこの構想は監督の意図したものではなく、『インフェルノ』公開後に勝手に一人歩きしたものだろうと思われる。

スージー役はダリア・ニコロディの予定だった

『Profondo Rosso(サスペリアPart2)』のダリア・ニコロディ

1975年の前作『Profondo Rosso(サスペリアPart2)』で、デヴィッド・ヘミングスとともに主役を演じた女優のダリア・ニコロディが、当初は本作でも主人公のスージー役に予定されていた。だが本作は当初から米国マーケットを視野に入れており、米国の配給業者が本国で売りやすくするためにアメリカ人の俳優を推薦してきた。それはブライアン・デ・パルマ監督の『ファントム・オブ・パラダイス』やウディ・アレン監督の『愛と死』に出演していた新進女優ジェシカ・ハーパーで、アルジェント監督は『ファントム・オブ・パラダイス』を観て、彼女の大きな目と純真なイメージに引かれたという。一方のダリア・ニコロディは本作の脚本も担当しており、夫のアルジェント監督からスージーの友人であるサラ役が割り当てられたが、彼女はそれを拒否。オープニングの空港の1シーンのみカメオ出演している。

本物の幽霊が映っていると思わせる演出

運転手の首に顔が映っている

本作の冒頭、空港でスージーが豪雨の中タクシーに乗り、運転手に行き先を伝えるシーン。雷光に照らされた運転手の首すじに奇妙な顔が映っている。日本公開当時は「本物の幽霊が映っている」と話題となったが、実際のところ、この幽霊は偶然に映ったものではなく、アルジェント本人が意図的に演出したものであった事が判明した。

日本公開時に行われた「ショック死保険」付きという宣伝戦略

本作の日本公開時の宣伝コピー「決してひとりでは見ないでください」(予告編ナレーションは声優の千葉耕市氏)は、ヒッチコック監督の『サイコ』のキャッチフレーズである「結末をしゃべらないでください」を参考に当時東宝東和の宣伝部長だった松本勉氏が考えたもので、流行語となりいろいろなメディアで取り上げられた。
また、東宝東和は公開に当たり、「ショック死保険」付きという宣伝も行っている。これは女性の観客に対して、映画の鑑賞中にショック死したら1000万円の保険金が支払われるというもの。ただ、日本では認められない種類の保険だったためイタリアの会社と保険契約を結んだ。銀座のヤマハホールで開いた試写会や、日比谷映画の公開初日に看護婦を待機させたが、誰も倒れることはなかったという。

『ミネハハ』原作説があった

本作はドイツの作家フランク・ヴェデキントが1903年に書いた『ミネハハ』をモチーフにしたとの説があるが、実際には本作の原作ではない。『ミネハハ』は、閉ざされた森の学校でダンスと音楽を学びながら集団生活を営む少女たちが繰り広げる、不可思議で類いまれな運命の物語。この『ミネハハ』はフランスの映画監督ルシール・アザリロヴィックの2007年の作品『エコール』の原作となっているが、アザリロヴィックがインタビューで話した内容を勘違いされ、宣伝材料となって一人歩きしたものである。

『サスペリア』の主題歌・挿入歌

主題曲:Goblin『サスペリアのテーマ』

イタリアのプログレッシブ・ロック・バンド、ゴブリン(Goblin)による本作のテーマ曲。
ゴブリンは1975年公開の『Profondo Rosso(サスペリアPart2)』でサントラ盤が大ヒットし、本作以降もしばしば映画監督のダリオ・アルジェントとコラボレートしている。

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