リリーのすべて

リリーのすべて

『リリーのすべて』とは、世界で初めて性別適合手術を受けた、リリー・エルベの実話を元に描いたヒューマン・ドラマ。2015年にアメリカ、イギリス、ドイツで製作された合作映画である。風景画家である主人公はある日、肖像画家の妻に頼まれ女性モデルの代役を引き受ける。そのことがきっかけで、自分の中に女性の存在があることに気付き始める。悩み苦しむ夫の変化に困惑しながらも、妻のゲルダは夫の本質を尊重し、理解を深めて行く。概念を超えた夫婦の絆と美しき愛の物語。

リリーのすべてのレビュー・評価・感想

リリーのすべて
8

夫婦の話

愛する夫が女になりたいと言ったきたら、、、と、考えると悲しくてたまりません。
リリーも、奥さんのことは好きだったんだろうし、でも、自分の中の女に気がついてしまったし、いろいろ切なかったと思いました。
奥さんの方は、そもそも旦那の女性性を引き出してしまったのは自分だし、絵は売れるしでほんとに複雑だったろうな、と思いました。
最初、ストッキングを履く部分は、なかなかセクシーでよかったです。
最初は、題名もそうだし、リリーが主役の話かなと思いましたが、見てみると、どちらかというと、奥さんの話でした。リリーが、だんだん自分を変えることに夢中になって、男性とキスしたり、もう、はたから見たら、そんな男捨てろよという状態なのに、それでもリリーのことを昔から知ってるから、応援してしまう奥さんの愛、それを見せられた映画でした。
夫婦のことは夫婦にしかわからないといいますが、ほんとその通りなのだと思いました。
リリーも、年もだいぶいってから、自分のことに気がついてしんどかったと思います。
それを支えようとしてくれる人がいたことはどれだけ心強かったでしょう。
リリーの最期は悲しいものだったし、悲しい話ではありますが、夫婦の話として、素晴らしかったと思います。

リリーのすべて
10

リリーのすべて

この作品を見終わった後、ジェンダー問題を抱える人たちが満足に生きられる世界になってほしいと願わずにはいられませんでした。作品中の時代では技術的に性転換手術が難しく、主人公のリリーは手術によって亡くなってしまいます。しかしそのことよりも、女性の格好をして歩いているからという理由で男性二人から暴行を加えられたシーンはとても心が痛みました。
また、リリーの妻も、自分が旦那として・異性として愛していた人が、もう自分を女として愛してはくれないことを受け入れなくてはならず、深く傷つくのです。しかし、自分の愛する人の幸せを願ってリリーの背中を押す彼女は、本当に強い女性だと感じました。
リリー役の俳優アイナー・ヴェイナーさんが大変美しかったです。女性のしぐさや立ち居振る舞いなど相当研究したように思いました。前半の男性のシーンはすごく男っぽいのに女性の格好になるとたちまちエレガントになり、「役者さんはすごいな」と改めて感心してしまいました。
性転換手術の技術がいかに向上したとしても、ジェンダー問題を抱える人たちは周りの人間の偏見によりなかなか自分らしく生きることが難しいです。暴力をふるったり差別をしたりすることは明らかに許されない行為ですが、ジェンダー問題を抱える人が特に自分の身近な人であればあるほど、それを受け止めることは並大抵のことではないと感じます。

リリーのすべて
10

深い愛と苦悩の物語

1920年代、画家として成功していたアイナー・ベルナーは、肖像画家の妻・ゲルダに頼まれ女性モデルをしたことをきっかけに、自身の中の女性の人格「リリー」を意識し始めます。
始めは悪戯だった女装がリリーとして目覚め、アイナーでいられる時間が少なくなります。ゲルダは混乱し、悲しみ寄り添いながら、夫もリリーも支えていきます。そして、世界初の性別適合手術を受けます。1回目は性器を取り、回復してから2回目の手術で膣を作るのです。1回目の手術でゲルダは「アイナー」と別れます。術後すぐに「リリー」の元にゲルダは向かいます。リリーはデパートガールとして働き、元々の自分の「性」(女性)を取り戻すべく2回目の手術を受けますが、危険な状態になり、ゲルダの見守る中亡くなります。

男性から女性への心の動きと、葛藤、妻への愛をエディ・レッドメインが圧倒的な演技で魅せます。そして、妻ゲルダをアリシア・ヴィキャンデルが深い愛を熱演します。ゲルダは難しい役だと思います。「リリー」が主人公ですから、ゲルダの心理は深く描かれていないのですが、それを見事に表現しています。「ジェンダー」とか関係なしにしても、是非観るべき映画だと思います。素晴らしく、又、悲しい物語です。

リリーのすべて
8

エディレッドメインの美しさが凄かった!

1926年、デンマーク・コペンハーゲンに暮らす肖像画家ゲルダと風景画家アイナーの話。
夫のアイナーは美術界でも少しずつ評価は上がってきてますが、妻ゲルダはなかなか認めてもらえず苦戦しつつも夫婦仲はとても良好!
ある日、ゲルダが描きかけていたバレリーナのモデルが来れず急遽、夫・アイナーに頼むことに。
拒否しつつも衣装を合わせるだけで良いというゲルダに、レースの広がった綺麗な衣装を手に取ったアイナーはその瞬間、言い知れぬ感情が自分の中に目覚めた事に戸惑います。
そこへ遅れてやってきたモデルのバレリーナは、衣装を合わせてポーズを取るアイナーを見て「リリー」と面白がって名付けました。
そして妻ゲルダもそんな夫を冗談で女装させて友人のパーティーに出席させた事から、アイナーの中でどんどん「リリー」が目覚めてきます。
ちょっとした冗談から恐らくずっとアイナーの中で眠っていた「リリー」を目覚めさせてしまった事で、アイナーは「リリー」になるべく、世界で初めて性転換手術を受けます。

アイナー役のエディ・レッドメインが後半は本当の女性のように美しいリリーになっていく変化が素晴らしく、そして彼を最初から最後まで、最後はもう夫という存在ではなくなったのに深い愛で支えた妻ゲルダを演じたアリシア・ヴィキャンデルの画面から滲み出る愛情に涙しました。
この時代に性転換手術という未知の医療に踏み切った2人の物語を、コペンハーゲンの寂しげな風景、パリの華やかな背景に載せてとてもとても丁寧に綴られた作品です。