父親たちの星条旗

父親たちの星条旗のレビュー・評価・感想

New Review
父親たちの星条旗
8

硫黄島で日本軍との激闘の末に米国旗を掲揚した名もなき兵士たちの群像を感動的に映像化した『父親たちの星条旗』

『父親たちの星条旗』は2006年公開のアメリカ映画で、監督、共同製作、音楽はクリント・イーストウッド。脚本はウィリアム・ブロイルズJrとポール・ヒギンズの手によるものです。原作はジェイムズ・ブラッドレイとロン・パワーズによる、1945年の硫黄島の戦闘を描いた作品『硫黄島の星条旗』です。同書では、硫黄島に星条旗を掲揚するために戦った5名の米海兵隊員と1名の海軍軍人たちの人生行路が描かれています。この映画は硫黄島の戦闘を米国の視点から描き出しており、本作品の姉妹作である『硫黄島からの手紙』(イーストウッドが監督)は戦闘の日本側の視点から描いています。興行収入的には製作費9000万ドルに対して65900万ドルの収益と結果こそ振るわなかったものの、映画は観客には好意的に受け止めらました。姉妹作品『硫黄島からの手紙』は2006年12月9日に日本公開(米国では同年12月20日公開)で、米国公開は『父親たちの星条旗』の米国公開(2006年10月20日)の2か月後のことでした。2016年6月23日まで、原作本『硫黄島の星条旗』の著者ブラッドレイの父親ジョン・ブラッドレイ(海軍軍人)は2番目の星条旗を掲揚した人間の一人であったと誤解されていて、旗を掲揚する場面を描いた高さ10メートル近いブロンズ群像の3番目の人間として造形されていました。

父親たちの星条旗
9

「英雄」の悲劇

『硫黄島からの手紙』と対になる作品ですが、『硫黄島からの手紙』のエピソードをアメリカ側から描いたもの、というわけではありません。硫黄島に星条旗を立てる写真に写ってしまった、あるいは写っていることにされてしまったが故に、人生をかき乱された「英雄」たちの物語です。
生き残った三人が戦債の購入を勧めるキャンペーンにひたすら利用される場面、そして三人の中でも、そのことに特に心を痛めたアイラが心のバランスを失っていく場面は、ある意味無残な遺体の映像以上に目を背けたかったです。軍や国家を含め、大きい意味での権力の無慈悲さを感じました。特に張りぼての摺鉢山に星条旗を立てさせる演出は、あまりに無神経だと思いました。
また、戦争というものは敵味方双方の虐殺以外の何物でもないことを、改めて実感しました。幸い私たちは戦争を経験していないわけですが、だからこそこの作品のような戦争映画を可能な限り観て、戦争は二度と繰り返してはいけないことを、何度でも心に刻むべきなのだと思います。作中でも語られるとおり、「戦場を知らない者こそ戦争について語りたがる」のですから。戦争映画を観ることは疑似体験にもならないかもしれませんが、何も見ないよりはずっとましだ思うので。