メッセージ / Arrival

メッセージ / Arrival

『メッセージ』(原題:Arrival)とは、本作後に「ブレードランナー2049」を撮るドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるSFムービー。
突如地球上に現れた巨大な宇宙船。飛来した目的を探ろうと、船内の異星人とコミュニケーションをとるため軍に依頼された女性言語学者が、彼らと接触するうちに未来を見ることが出来るようになり、自分の人生を見つめ直していくシリアスタッチの知的なドラマ。2016年製作のアメリカ作品。

メッセージ / Arrivalのレビュー・評価・感想

メッセージ / Arrival
9

メッセージ:言語と時間の境界を超える知的SF

円形の宇宙船が地球の空に浮かぶ。その姿は、まるで巨大な墨で書かれた句読点のよう。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』は、私たちの言語感覚と時間認識を根底から覆す、知的で詩的なSF映画です。

エイミー・アダムス演じる言語学者ルイーズ・バンクスの瞳に映る、あの巨大な宇宙船。その姿は、彼女の内なる悲しみと、人類の未知なるものへの畏怖を同時に体現しているかのようです。ルイーズが初めて宇宙船内に足を踏み入れるシーン。重力が変わり、上下の概念が崩れる瞬間は、この映画が私たちの認識をいかに揺さぶるかを暗示しています。

ヨハン・ヨハンソンによる音楽は、エイリアンたちのコミュニケーションそのもののよう。言葉にならない唸りや、ざわめきのような音が、私たちの皮膚を通して直接心に響きます。それは、言語を超えたコミュニケーションの可能性を示唆しているのかもしれません。

エイリアンたちの「文字」である墨で描かれた円形の記号。その複雑で有機的な形状は、まるでリービヒの反応容器の中で起こる化学反応のよう。言語と思考の関係性を視覚的に表現したこの記号は、サピア=ウォーフの仮説を具現化したかのようです。

ブラッドフォード・ヤングによる撮影は、ルイーズの主観的な時間感覚を巧みに表現します。しばしばスローモーションで描かれる場面は、彼女の意識の中で時間が引き伸ばされ、あるいは圧縮されていく様子を映し出しています。それは同時に、線形的な時間認識からの脱却を示唆しているのです。

ジェレミー・レナーが演じる理論物理学者イアン・ドネリーとルイーズのやり取りは、科学と人文学の協調を体現しています。彼らの会話は、複雑な概念を噛み砕いて伝えるという、この映画全体のテーマを小さな規模で再現しているかのようです。

そして、あの衝撃的な「啓示」のシーン。ルイーズの過去だと思っていた映像が実は未来であったという瞬間。この驚きは、私たちの時間認識を完全に覆し、物語を新たな次元へと引き上げます。それは同時に、私たちの人生の選択について深い問いを投げかけるのです。

『メッセージ』は、言語と時間という人間の認識の根幹を揺るがす、知的でありながら感動的な作品です。それは、コミュニケーションの本質、そして私たちが「現在」と呼ぶものの儚さについて、深い洞察を与えてくれます。

メッセージ / Arrival
10

対話が生み出す生きることの答え

2017年公開のSFミステリー映画。
突如世界中に現れた宇宙船。搭乗する知的生命体の目的を聞き出すため、言語学者のルイーズが彼らとの対話に挑む物語が展開されていきます。

人間の業を、深く、繊細に描くことに定評のあるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作。
壮大なスケールのSF作品になっていつつ、ゆったりと静かに進んでいく展開は、今作のテーマの1つとなっている"傷を癒す対話"のようにも感じられます。
知的生命体"ヘプタポッド"が扱う未知の言語や、作中で流れるモールス信号のような音楽など、ビジュアルやサウンドの両面で"対話"を表現しているのも注目したいポイント。

そうして描かれていく物語の結末は、あまりにも美しく衝撃的です。
見る人によっては美しく感じ、また、見る人によってはショックを受ける人もいるでしょう。
賛否の分かれるラストだと言えます。

それでも私が本作を素晴らしいと思う理由は、結末を見て感じたどの感情も、私たち人間でなければ感じ得ないものだというメッセージを体現している作品だからです。
この作品の終盤で明かされるある仕掛けは、私たち人類が言語を"話す"ことで理解できる生き物だということ、そしてそれによって"人生"が形成されていることを仄めかしてます。

生きることは、流れる時間の中で様々な感情に直面することだと言ってもいいでしょう。
正の感情、負の感情をどうとらえるか、その問いに1つの答えを出しているのが本作『メッセージ』だと感じます。時間のある方は、ぜひ続けて2回見てほしい。きっと、より美しく衝撃的な結末を感じられるでしょう。

メッセージ / Arrival
7

悲しい未来が見えるなんて

異星人が来て、彼らとのコミュニケーションをはかるためには、まず言語を理解しなければならないというのはもっともな話で、
今までの宇宙人って翻訳こんにゃく的なものを持ってるか、有無も言わさず攻撃してきてたから、当たり前のことをしている本作がとても新しい感じがしました。
こういう仕事を頼まれるのは言語学者なんですね。
意味不明な音から、言語を導き出すなんて、すごいなと思います。
でも、彼女が仕事に就く過程がちょっと荒唐無稽というか、政府関係者がなんで彼女のところに来たのか、そして、なんであんな上から目線なのかよくわかりませんでした。
もう少しスムーズに話に持って行けよと思いました。
そして、本作はその異星人との話がメインというより、彼女に与えられた運命の話がメインみたいなところがあったと思います。
彼女は異星人から未来が見える能力をもらうのですが、そのせいで自分の悲しい未来を知ってしまうのです。
知っていることなのに、回避したらいいのに、それでも娘に会いたいと思う母心に泣いてしまいました。
あれは反則だと思います。地球のため、あんなに尽力した彼女がなんでこんな目にと悲しくなってしまいました。
ちょっと強引なところはありましたが面白かったです。