理不尽でかわいそうなのに美しさを感じた
ポッドキャスト番組の司会進行をしているウォレスは、仕事の取材のためにカナダへ行って、現地の酒場の壁にあった貼り紙に書かれている冒険をした昔話を聞きに来てほしい老人の家の住所へ向かいました。老人は人里離れた大きな屋敷に一人で住んでいて、ウォレスを迎え入れて飲み物を出しました。老人は若き日に海で遭難した際に、一頭のセイウチと心を通わした友愛の日々を語りました。しかし、ウォレスに出した飲み物に強い効果の睡眠薬を入れていて、ウォレスの両足を毒蜘蛛に噛まれたからと嘘をついて切断しました。やがて老人はウォレスの肉体を手術でセイウチそっくりにしてしまいました。セイウチ人間になったウォレスを監禁している部屋にはさざ波の音とカモメたちの鳴き声だけの静寂な海の映像、と聴いた人の心に安らぎを与える音楽が流れ、ウォレスの怒りと嘆きの声が響いていました。身勝手に肉体改造されて鎖に繋がれているウォレスがとても可哀そうなのに、老人の理不尽の結果が満ちているこの部屋の場面は、美しく見えました。
終盤にウォレスの恋人と職場の相棒がウォレスを見つけに駆けつけてくれましたが、ウォレスをセイウチにした老人は死にました。ウォレスは肉体は完全にセイウチで、脳と心が人間のままで、お魚を主食として動物園で暮らす運命を強いられて物語は終わります。初めての自分だけのレンタル会員証を作ったときに出会った、可哀そうすぎて一部のフェティシズムに大変ぞくぞくとくる忘れられない作品でした。