光鮮やかなインド版『ニュー・シネマ・パラダイス』
2021年のインド映画。田舎町の貧困層で育つ少年が、街の映画館で映写技師と出会う。そこで彼は映画と、映画作りの憧れに魅せられていく。しかしそこには、チャイ売りの父の下で働く貧しさと、映画産業の移り変わりが彼の前に立ちはだかる。
あらすじだけでもインド版『ニュー・シネマ・パラダイス』といった趣で、一般的にイメージしやすいボリウッド映画のような華やかさや楽しげなミュージカル調の映画ではない。
映画に魅せられた主人公の少年の希望と挫折の物語は、ひたすら淡々と進んでいく。
この映画最大の魅力は、他の欧米や日本の映画ではあまり見受けられない独特の光加減による美しい映像美。その映像のコントラストによって、インドの情景や料理、キャラクターたちの心情を美しく魅力的に映し出していく。その《光》が今作では重要なテーマとなっている。作品の主題となる《映画》というものの《表と裏》。そして貧困という闇と、それに打ち勝つための希望などの《光と影》。こういった答えの出ない表裏一体のテーマを、洗練されていてかつどこかノスタルジーを感じる映像美によって見事に描いている。
この《光》を意識しながら観ることで、より自然と主人公の少年に感情移入していき、それこそ暖かい光に包まれるような気分にさせられる。見終わったあと、答えの出ないものでもどこか納得して前を向ける、そんな強さをもらえる映画。