流浪の月

流浪の月のレビュー・評価・感想

流浪の月
9

自分のなかにある当たり前が問われる作品でした

自分が正義だと思っていることは、誰かにとっての正義ではないのではないか、自分のなかにもつ価値観が何度も問われたそんな作品でした。
「流浪の月」は、本屋大賞も受賞した凪良ゆうさんの小説を原作としています。そして、その凪良ゆうさんが描く世界観が、松坂桃李さん、広瀬すずさん、横浜流星さん、多部未華子さんといった豪華な俳優陣によって繊細にかたちづくられています。
この作品は第46回日本アカデミー賞にて、6部門で優秀賞を受賞したことからも、日本の映画界で非常に高い評価を得ていることを物語っています。この作品を観て、松坂桃李さん演じる文と、広瀬すずさん演じる更紗を取り巻く境遇に、ただかわいそうだなと思う人もいるでしょう。しかし、そこから一歩踏み込んで、文と更紗を通して自分のなかにある正義や、自分の傍にいる人のことに思いを馳せてみようとすると、自分のなかにある当たり前の多くを疑い考えさせられるのではないかと思います。それは、それぞれの人がもっている価値観は異なるものであることを前提としていますが。
このように、様々なことを考えさせられる「流浪の月」は、1度ではその全てを咀嚼することは難しいです。何度も見返しながら世界観を噛み締める必要があるではないかと思います。

流浪の月
7

理解されないことの苦しみを丁寧に描いた映画

2020年本屋大賞受賞した小説が原作の映画です。
主人公の更紗は、周囲から幼い頃誘拐された被害者として同情を集める人物ですが、本人は本当にあったことを話すことができず、長い間苦しみ続けていました。
この物語で本当に罪を犯した人物は、更紗を誘拐した大学生・文ではなく、別の人物。更紗は文の無実を証明することができず、自分の無力さを痛感して、他人に自分の気持ちを打ち明けられない大人へと成長していきました。

この映画は、心に痛みを抱えた人間の他者に対する絶望感を丁寧に描いた作品です。
一般的に被害者に同情し、加害者を責める傾向にありますが、この映画は当事者の声に耳を傾けず自分の価値観で判断してしまう危うさを教えてくれます。
被害者の更紗と加害者の文は、真実をどんなに言葉で語り尽くしても理解されない人物として描かれており、似たような境遇をもつ2人の絆が際立って感じられるのです。

2人がお互いを、「真実を知る唯一の理解者」として惹かれ合う姿には、恋愛ともいえない、不思議な愛の形を感じることができるでしょう。
物語の最後、2人は恋人でも夫婦でもないけれど、特別な絆で結ばれた関係は、私たちに幸せな未来を感じさせます。