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理解されないことの苦しみを丁寧に描いた映画
2020年本屋大賞受賞した小説が原作の映画です。
主人公の更紗は、周囲から幼い頃誘拐された被害者として同情を集める人物ですが、本人は本当にあったことを話すことができず、長い間苦しみ続けていました。
この物語で本当に罪を犯した人物は、更紗を誘拐した大学生・文ではなく、別の人物。更紗は文の無実を証明することができず、自分の無力さを痛感して、他人に自分の気持ちを打ち明けられない大人へと成長していきました。
この映画は、心に痛みを抱えた人間の他者に対する絶望感を丁寧に描いた作品です。
一般的に被害者に同情し、加害者を責める傾向にありますが、この映画は当事者の声に耳を傾けず自分の価値観で判断してしまう危うさを教えてくれます。
被害者の更紗と加害者の文は、真実をどんなに言葉で語り尽くしても理解されない人物として描かれており、似たような境遇をもつ2人の絆が際立って感じられるのです。
2人がお互いを、「真実を知る唯一の理解者」として惹かれ合う姿には、恋愛ともいえない、不思議な愛の形を感じることができるでしょう。
物語の最後、2人は恋人でも夫婦でもないけれど、特別な絆で結ばれた関係は、私たちに幸せな未来を感じさせます。