鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 / ゲ謎

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 / ゲ謎

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』とは、2023年に公開されたアニメ映画。『ゲゲゲの鬼太郎』の第6期アニメシリーズの前日譚となっている。監督は古賀豪で、興行収入は約27億円。宣伝は少なかったが、公開後に評判が広まって大ヒットを記録した。キャッチコピーは「初めて明かされる、鬼太郎の父たちの物語」。
昭和31年、日本財政界に強い影響力を持つ龍賀時貞が死去。次期当主が誰になるか探るため、龍賀家の人々が暮らす哭倉村へと赴いた戦場帰りの青年・水木は、謎の青年ゲゲ郎と共に忌まわしき秘密を解き明かしていく。

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 / ゲ謎のレビュー・評価・感想

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 / ゲ謎
7

鬼太郎ファンなら見るべき!ミステリーホラーな大人の鬼太郎物語

長い歴史がある『ゲゲゲの鬼太郎』の映画。鬼太郎の物語は妖怪が出てくるホラーですが、子ども向けの作品が基本。けれどもこの作品は大人向けの作品です。
鬼太郎の出生や過去はアニメ作品によって多少の変化はありますが、共通の設定としては人間に育てられたという過去があります。原作である漫画では育ての親に対してあまり良い印象を抱いていないような鬼太郎。けれどもアニメ化に伴い近年では人間の味方のような立場で描かれています。
幽霊族と言われる妖怪。その幽霊族が鬼太郎以外がほぼいないのは人間によって滅ぼされたからでした。時にこの映画の世界線である6期では妖怪と人間との争いが書かれていたりします。
「妖怪と人間はなるべく関わり合いにならない方が良い」、そう考えている鬼太郎ですが、それでも人間を助けようとするその理由が描かれます。
鬼太郎の養父・水木は戦争で生きた帰ったが苦労によって出世欲に取り憑かれた青年。危険な橋だとわかって居ても出世のために怪しい村へとたどり着きます。そこで出会ったのは目玉おやじになる前の人間と同じ姿をした鬼太郎の父親でした。
水木は出世に必要な秘薬「M」の製造方法を、鬼太郎の父は行方不明の妻(つまり鬼太郎の母親)を探すために協力関係になります。
水木は鬼太郎の父にゲゲ朗というあだ名をつけます。閉鎖的な因習村。訳ありであり謎が多い一族。
村の外に憧れる少女。幼い夢見る男の子。親族同士で争う跡目争い。そして起きる謎の連続死。
本格ミステリーのような閉鎖的な環境と妖怪が出てくるホラーで、鬼太郎ファンでなくても見て後悔しない作品です。
ただし小さな子どもにはお勧めできません。

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 / ゲ謎
10

登場人物は妖怪だけど拍手喝采のヒューマンドラマ

妖怪を扱った作品でありながら、描いているのは人間という印象です。
人間の醜さ、惨めさ、さもしさといったものが、ありありと伝わってくるようでした。
時代背景が戦後の日本だからか、雰囲気は横溝正史の描く「金田一耕助シリーズ」に通ずるものがあります。
特に水木が龍賀家に弔問に訪れた際、弁護士によって遺言書が読み上げられるシーンなんかは「犬神家の一族」を思い起こしました。
龍賀時貞翁の遺影が存在感を示しているのも、犬神家の佐兵衛翁の遺影がちょこちょこ映り込むのとよく似ています。
閉鎖的な田舎の感じは「悪魔の手毬唄」、村ぐるみで感じる狂気は「獄門島」と言ったところでしょうか。
とにかく、金田一耕助シリーズのファンならグッとくるものが多いと思います。
そんな中、誰よりも血の通ったキャラクターとして印象的だったのが、鬼太郎の父であり、かつての目玉おやじである「ゲゲ郎」なんです。
幽霊族であるゲゲ郎が、誰よりも温かい。人間ではない彼が、誰よりも人情があるという矛盾。
そして、その狭間で揺れ動くのが今回の主人公・水木でした。
水木は戦争を通して人間のあさましさを知り絶望していましたが、ゲゲ郎との関わりの中で少しずつ変化していきます。
そして、当初は己の野心のために龍賀一族に近づいた水木が、「地位、名誉、金、いい家、いい服、女」をこの世の全てだと主張する時貞を「つまんねぇ」と一蹴!
これが最高に気持ちよく、本当に格好良かったです。
そのシーンからエンディングまで、涙が止まりませんでした。