元祖ガールズポップ
川本真琴というアーティストは、ちょうど私が中学1年生の思春期真っ只中に現れた。
『るろうに剣心』というアニメのオープニングの主題歌で彼女の曲を初めて聴いたとき、その可愛い歌声と早口だけど部分的に聴き取れる歌詞、そしてかつて聴いたことのないコード進行・メロディに衝撃を受けた。
私自身ピアノを習っていたので曲の流れや和音の使い方は知っていたが、彼女のその奇想天外な曲展開や聴いたことのない音の組み合わせに一気に魅了されてしまったのである。
すっかり魅了された私は大急ぎで彼女の出ている番組をチェックした。
テレビでしゃべる彼女は番組のMCを困らせてしまうほどの天然っぷりで、しかし曲が始まると一気にアーティストの顔になる。
顔も抜群に可愛くて、オシャレで、類まれなる音楽の才能。
当時コンプレックスの塊だった私が憧れを抱いたのは言うまでもない。
そして何よりも私の心に刺さったのは、思春期の「なんとも言えない」気持ちが散りばめられた歌詞。
甘酸っぱいというありきたりな表現には当てはまらない、なんだかむず痒くて、なんだか切なくて、なんだか叫びたくなりそうな、その「なんだか」を表現するのがとてもうまいのだ。
それは例えば、「ひまわり」という曲の「浴衣とスニーカーで一緒に隠れた」や「半分こにした宿題だけが机の上にすっぽかされてひろげてあるよ」という歌詞。
直接「せつない」という言葉を使わずとも、こんなにみずみずしく表現できるなんて…。
彼女が出したファーストアルバムの名前はまさに「川本真琴」。
多面的な彼女の自己紹介のような、どれも彼女らしい曲揃いで貪るように聴きまくった。
そして、私は中学生から高校生になった。
高校生になってからは生活がだんだん充実してきて、大学生になり忙しくなって彼女の曲はすっかり聴かなくなってしまった。
しかし、酸いも甘いも噛み分けて大人になった今だからこそ聴くと、なんだか可愛くて、なんだかこそばゆい。
当時の「なんだか」という気持ちを持った中学生の頃の純粋な自分に戻れるのだ。
私にとって川本真琴というアーティストは、そんな唯一無二のアーティストである。