ハッとするラスト。初めは退屈な時間が静かに流れるが、気づいたらのめり込んでいた。そんな映画だ。 笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈はもちろん脇役からも目が離せない。本当の家族とは、絆とは何なんだろう。偏見に負けず、必死に生きる人々の日常が淡々と描かれている。今こそ見たい映画だ。
モノクロの画面で、主人公秀丸の死刑が執行される場面から幕を開ける。
その後、場面は切り替わり、閉鎖病棟での日常が、ときに微かな笑いも交えて静かに淡々と進んでいく。
死刑執行に失敗し、車椅子で陶器を作る秀丸。秀丸を慕うチュウさん。父親からのDVが原因で強制入院させられる女子高生のゆき。
それぞれが居場所がなく、いつしか心地よい家族のような存在になっていく。
カメラ小僧の青年を交えて、4人で買い出しに出かける姿は、不揃いで誰もかみ合ってはいないが、幸せな家族の姿そのもののような気がした。
その後、さなえさんという家族のいない孤独な老女が、海で命を投げてしまう。
表面上は、温かな家族に囲まれ、裕福な暮らしをしていると装っていたことを閉鎖病棟にいる仲間は知っていたが、現実を目の当たりにして、彼らは苦しむ。
それから、閉鎖病棟にいる気の荒い男が起こした事件が、秀丸を再び殺人犯にしてしまう。
第一の殺人の場面と重なりやりきれない気持ちになる。
殺人現場を息子のような存在のチュウさんに目撃され、「来ないでくれ」という声が小さく漏れる場面が秀丸の抱えてきた苦しみ、葛藤をあらわしている。
ラストにかけての裁判の場面には、姿を消していたゆきの姿が現れる。
髪が伸び、化粧をして凛としているゆきが、秀丸がなぜ殺人を犯してしまったか真実を語る。
秀丸に買ってもらったえんじ色のシュシュをきゅっと結んだ姿は以前とは別人のようだ。
チュウさんも以前の自信のないチュウさんではなく、判決の下った秀丸を追いかけ「オレ、閉鎖病棟出たんだよ。出られたんだよ。」と大声で叫ぶ。
ラストは刑務所の広い運動場で、車椅子から立ち上がろうとする秀丸の姿が映し出され、エンドロールを迎える。
Kが歌う曲は静かなバラードで静かな涙を誘う。
心の奥底に訴えられるような映画だった。
普通に生きることが困難な人たちの心の部分に少し触れることができるかもしれない。
人との絆は素晴らしく、家族は血のつながりだけではないことを知れるとっておきの映画だと思う。