朝が来る

朝が来るのレビュー・評価・感想

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朝が来る
7

子供を持つということを考えさせられる作品

この作品は子供を持つということをすごく考えさせられる映画でした。
子供を望んでいるものの夫が無精子症であることが発覚し子供を産むことができない夫婦の話です。
初めは離婚をすることを提案しますが夫婦はともに養子をとることで子供を持ちたいという互いの気持ちを叶えようとします。
養子を持つためには様々な壁がありますが、お互いにきちんと話し合いながら絆を深めつつ、養子を共に育てていきます。
実の親は中学生の頃同級生の男の子との子供を作ってしまったため育てることができず、
また両親にも猛反対を受け仕方なく子供を養子に出したという事情があるため、子供のことを気にし続けていました。
不妊治療で子供が欲しくてもできない親がいる中、たまたま子供ができても育てられない親がいる。
それに子供が翻弄されるという現実に胸がざわざわしました。
ある女が子供の母親ですと名乗り出てきますが、夫婦はどうしても本当の親だとは思えず、
事情を聞くと中学生で子供を産んだ女の子の友達でその女の子にもそうせざるおえなかった生活環境が映し出されます。
様々な人々の全く違う環境が混ざり合って複雑な状況をすごくわかりやすく、
また子供を産む、もつということについて深く考えさせられる作品です。

朝が来る
9

「その子…私の子です。返してください…」特別養子縁組を描く名作映画

「子供を返してほしいんです」
一本の唐突な電話から始まる本作は、日本の特別養子縁組の実情を描いた名作映画である。
2020年上映
監督:河瀬直美
出演:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子
原作:辻村深月『朝が来る』
子供を育てる際に、重要なことは何だろうか。「愛」と答える方が多いと思う。
よく赤ちゃんは「夫婦の愛の結晶」などと表現され、小さい子供を連れている家族を見ると愛を感じることが出来る。しかし、子供が欲しくてもできない夫婦がいることを忘れてはならない。
本作の主人公夫婦は、長年の愛を実らせ素敵な家庭を築いている。自然の流れで「そろそろ子どもが欲しいな」と奥様側からの提案があり、子作りを開始するも、なかなか妊娠に至らない。
病院で検査をすると、夫の精子が無精子病と診断される。手術や体外受精など別の方法を考えて模索するが決して有効な結果には結びつかない。さらには、お互いの気持ちもすれ違い夫もプレッシャーを感じる日々が続いていく…
罪悪感から普段の会話も少なくなる夫は、ついに離婚を考えても構わないと打診をするも、妻から出た一言は意外な一言であった。
「大事なことはお互いを愛する事であって子供がいなくても構わないよ」
その一言で救われた夫は、愛を優先することを誓う。
そんな中、ふとテレビから流れてきた特別養子縁組のドキュメント番組で、「世の中には恵まれずに生まれた子供がいて、その子を養子として家庭と結びつける手助けをしているんです」
物語は動き出す。
本作は、子供が欲しくてもできない夫婦と、真面目に勉学を励むも、若さゆえに子供が出来てしまう少女を軸に描いた作品である。
特別養子縁組制度を題材に、「家族の愛」を描いた本作には感動の一言では語りつくせないドラマがある。邦画ならではの感情の機微を描いた名作である。

朝が来る
9

アサノヒカリ

都内の高層マンションで幸せに暮らす清和と佐都子の夫婦、幼い息子の朝斗。
その幸せは一本の電話で動揺が走る。
朝斗が幼稚園で友達を怪我させたというのだ。
しかしこれは相手側との誤解で、事無き終えたが、佐都子は心労を重ねた。
実は朝斗は、特別養子縁組で迎え入れた念願の子供であったのだ。

夫の無精子症で子供を授かる事が出来なかった二人。
離婚や体外受精、子供を諦めるという事も…。
そんな時知った、特別養子縁組。
何らかの理由で子供を育てられない親が、我が子との関係を解消し、子供を育てたい養親に引き渡す制度。
その架け橋となる団体“ベビーバトン”。
親が子供を選ぶんじゃなく、子供が選ぶ事があってもいい。
二人はベビーバトンから至って元気な男の子の赤ちゃんを譲り受ける。
その時、産みの母親にも会った。まだ14歳の女の子、ひかり。
二人はひかりに感謝をし、ひかりは我が子との別れを惜しみ…。

そんな事情で二人にとって朝斗はとりわけ大切な“息子”。
それから6年、その電話で動揺走ったが、別のもう一本の電話で今度は衝撃が走る…。

「子供を返して下さい…」
電話の主は、ひかりと名乗る。朝斗の産みの親。
二人は直接会う事にするのだが、かつての面影は全く無く。
お金を要求したり、我が子の年齢を言い違ったり、直感する。
「あなたは誰ですか…?」

いつものドキュメンタリータッチの演出や繊細な心理描写に加え、今回ちと小難しそうな特別養子縁組制度などの事もあって、かなり構えて見たのだが、どうしたものか!
それらと考えさせられる社会問題、意外やエンタメ性&感動が見事に合わさり、河瀬直美監督の新たな代表名作と言っていいのではないだろうか。

序盤、過去に遡り二人が朝斗を迎え入れるまでに引き込まれた。
本当に二人にとって、長く、苦難の歳月。
酒に酔った清和が言う。「子供を授かるって奇跡だよ」本当にそうだと思う。
結婚して子供を授かるのが一般だが、どうしても子供を授かれない夫婦も居る。
その一方、我が子を虐待し、死に至らしめる親も。この不条理。恥を知れ!
特別養子縁組制度についても分かり易く描いてくれる。
説明会は演者以外本物の希望者を起用し、さすがここはドキュメンタリータッチの手腕が活かされ、台本もナシのリアリティーにこだわった撮影。

そんな二人の前に現れた“ひかり”。
本人か、別人か。
辻村深月の原作小説はヒューマン・ミステリーのジャンルに位置付けられ、確かに色々考え巡らしてしまった。

でもまずそれはさておき、佐都子らが“育ての親”なら、ひかりは“産みの親”。
前半は佐都子ら側のドラマが描かれていたが、後半はひかりの妊娠〜我が子を手離すまでが、感情たっぷり、じっくりと描かれる。

地方の中学生のひかり。
両想いだった同級生と付き合うように。
毎日が光り輝き、幸せ。愛し合い、結ばれた果てに…妊娠する。
まだ14歳。中学生。子供が子供を産む。
嘆き悲しむ両親は特別養子縁組制度を知る。
学校や周りには内緒で出産まで預かって貰い(悪い病気で遠くに入院と説明)、受験までに復帰。
自分の意見など聞かず勝手に決め、彼氏とも一方的に別れを…。
そんなひかりの心を癒したのは、ベビーバトンでの暮らしだった。
子供が子供を産む。何らかの理由で子供を育てられない。
同年代や似た事情を抱えた少女が多い。
佐都子らが申請した頃は大きな団体だったが、今はもう縮小し、小さな島でひっそりと。
しかしそれが、共に暮らし、心に傷を負った少女たちの心を癒していく。

ひかりのお腹はどんどん大きくなっていく。
私自身はまだ子供かもしれない。
そんな私の身体の中で間違いなく育まれていく命。
でも、産まれたら別れがやって来る…。
産まれる前に“ちびたん”と一緒に見た朝の光り。
一生、忘れないよ…。

出産し、佐都子らに惜別と共に我が子を手離し、実家に戻る。
放心状態…。
親族の心無い一言に傷付く…。
家を出たひかりは再びベビーバトンへ。
しかし、ベビーバトンは間もなく閉鎖されるという。
行き場を無くしたひかりはこっそり書類を調べ、我が子の所在を知り、上京するのだが…。

ただ少しでも我が子の傍に居たかった。
が、地方からやって来た“子供”にとって、大都会は余りにも無情だった。
その後ひかりが歩んだ6年間は、壮絶。
とても一言では言い表せない。
自分から身を汚し、堕ちていったかもしれない。
でも、全て彼女が悪い訳じゃない。
純真だった少女を無視し、翻弄と過酷の海に放り投げた大人たち、この社会…。
見た目も変わったのは無理ないだろう。
そう、別人ではなく、紛れもなく本人。
見た目が変わったからって、何を否定する?
ひかりはその純真な心は荒んでいない。
寧ろ、荒んでいるのは周りや社会、さらに言ってしまえば、佐都子ら。
「あなたは誰ですか…?」じゃない。
見た目が変わると、こうも疑うものなのか。
「あなたたちは何故覚えてていなかったんですか…?」

キャストたちは演技を通り越して、役と一心同体に成りきった。
永作博美演じる佐都子の動揺、井浦新演じる清和の引け目…。
二人の悲しみとようやく迎え入れた幸せ。
朝斗役の佐藤令旺のナチュラルさ。
ベビーバトン代表の浅田美代子の佇まい。何かの評か記事で、樹木希林との共演も多く、いずれそんな女優に…と書いてあった気がするが、幾ら何でも言い過ぎと思ったが、本作での彼女の存在感はそれも頷けた。
そして、蒔田彩珠。ひかりを演じるとか成りきるとかじゃなく、いたいけなひかりを、純真に痛ましく儚く、生きた。
だからこそ我々は、本作を見て、何よりも誰よりも、ひかり=蒔田に惹かれ魅せられる。

そんな彼らを、美しい映像が包み込む。
河瀬監督の演出は前述の通りだが、もう一つ。“産みの親”と“育ての親”どちらが相応しいか、本作はそれを問い掛けているのではなく、双方にある葛藤を描いている。

もし、自分だったらどうするか…?
佐都子の立場だったら…?
ひかりの立場だったら…?
明確な答えなど出ないだろう。
でも、かつて見た美しい朝の光りのような、子供の為に。

朝が来る
8

救われるラストでよかった。

子どもができなくて悩む夫婦の描写もよかったし、若くてまだ育てられないのに妊娠してしまった女性の苦悩もよくわかりました。子どもができるかもしれないのに安易に関係をもったり、この国の性教育は本当に遅れていると思います。そして、子どもができると女はそこから逃げられず、男は逃げられるという現実がそこにはありました。子供を産んで、本当に子どもが欲しい家族に繋げるというとてもいいことをしたのに、その後、両親とうまくいかないのは本当にかわいそうでした。そこは親がどうにかしてやれよって感じです。最初、主人公夫婦の元を訪ねてきたのが誰だかわかりませんでした。ひかりさんのような気もするし、そうじゃない気もします。その作り方がすごくうまいです。社会派ドラマでもあり、ミステリーでもありました。ラストがすごく印象深かったし、子どももちゃんとはわかってないかもだけど、母が2人いることを知っていたのは大きなことだなと思いました。養子であることは全然悪いことでも、隠すべきことでもないんだと強く感じました。もちろん、いつ言うかは家族が考えることで正しいときなんてないと思うけど、外野がとやかく言うことじゃないと思います。少し救われる感じで終わっていて、いい映画でした。