にいちゃん

にいちゃんのレビュー・評価・感想

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にいちゃん
10

普通とは何か。多様性とは何か。『にいちゃん(著:はらだ)』

幼い頃、近所のにいちゃんに手を出され、現場を母親に見られてしまったゆい。それを境に、いつも遊び相手になってくれていたにいちゃんは姿を消し、親からは過保護なまでの監視を受けるようになってしまった。
あれから時が経ち、にいちゃんを忘れられないゆいはある日もあてもなく街を徘徊し、そしてついに再会の日がくる――。しかし、久しぶりに会ったにいちゃんは、昔のような優しいにいちゃんではなくなっていて……。 ふつうってなに まともってなに これはいけないこと…?BL界の鬼才・はらだが描く衝撃の禁断愛、ついに解禁ーー。

最初にお伝えしますが、読む人を選ぶ作品だと思います。この作品には「同性愛」や、「小児愛」などの表現が含まれており、
「リバ」表現も含まれるので苦手な方は読まない方がいいです。すべて物語の主軸要素となっています。
ですが、それ故に「普通って何?」「どうして普通じゃなきゃいけないの?」と考えさせられる作品です。読み終わった後は気持ちがズンと重たくなる作品であることは間違いありません。

「未成年へ性的行為を行ったとして逮捕」「小学生の男児に性的暴行を加えたとして逮捕」という文字をニュースで見かけますよね。
この作品を読んでから、このようなニュースを見るたびに複雑な気持ちになります。それだけ読者の心に残り続けるストーリーだと思います。

ネタバレはしたくありません。漫画自体も1巻で完結するので読みやすいと思います。暗いストーリーを読みたい気分になった際や、いつもとはちょっと違う作品を読んでみようと思った際は、『にいちゃん(著:はらだ)』をどうぞ。

にいちゃん
9

性の壁を超えた後の虚無

はらだ氏が執筆した「にいちゃん」と言うBL作品がある。 BLと聞いただけで偏見を持つ読者もいるかと思うが、まずはこの「にいちゃん」を読んでほしい。
大まかなあらすじは、同じ団地に住む小学生の主人公と、隣に住む面倒見の良い大学生の愛の話です。 主人公は兄ちゃんが好きだったが、兄ちゃんの性的いたずらが原因で兄ちゃんはマンションから引っ越してしまう。 少年は怖い思いをしたが兄ちゃんを嫌いになれず、女性にも興味がなく中学生になっても兄ちゃんを探していた。 そんな中、ついに兄ちゃんを偶然にも発見し声をかけるが結局優しい兄ちゃんはそこにはおらず、逆に性的搾取をされる羽目になった。 それでも少年は兄ちゃんが好きだから言うことをきいてきた。 とここまで大まかなあらすじを終わりにする。
なぜ少年はそんなににいちゃんが好きだったのか、子供の「好き」・「愛している」気持ちを蹂躙する大人たち。兄ちゃんはどうして男色になってしまったのか。 男と女しかいない世界でそれでも「好き」の形は人ぞれぞれで、この作品はそういったLGBT問題も含め性と愛の形を決して肯定も否定もせず「こういう愛もある」と綴っている。
終盤、兄ちゃんと主人公は同棲しながら生活を続けるが、このまま俺たちはどこへ行くんだろう、兄ちゃんが病気になったら、死んだらどうしたらいいんだろうという、現代のLGBT問題の片鱗を見せている。 ただのBLマンガは若い男性同士の愛の物語が多いが、「にいちゃん」では年老いても自分たちはこのままでいいのかと不安を過らせている。
はらだ氏の描くマンガはハッピーなのもあれば常に性や個人のドロドロとした感情を上手に表現している。 アンハッピーエンドとまではいかないが、同性愛者の問題に切り込むマンガとしておすすめしたい。