UKの港湾都市ブリストルが生んだ奇跡
マッシヴ・アタックは商業的に成功していながら、高い芸術性とクリエイティビティを保ち続けている稀有なアーティストです。
ファーストアルバムの『Blue Lines』で披露されたブラックミュージックとエレクトロニカの融合はそれまでの音楽にはない形態をとり、その新しいサウンドによって、Trip Hopというジャンル名が生まれました。
しかし、『Blue Lines』が人々に驚きを与えたのは、Trip Hopと名づけられた音楽ジャンルとしての新しさだけではないように思います。
Trip Hopの音楽にしろ、それ以外のジャンルの音楽にしろ、『Blue Lines』のような作品は、それ以前の作品にも、それ以降の作品にも聴いたことがないからです。
そして、それはマッシヴ・アタックの次作以降にも現れることがなくなってしまった特異性でした。
『Blue Lines』は非常に変わっていて、通常の音楽とは別次元にあるような印象です。
まるで映画を編集するときのような感覚で作られたということも聞いたことがあります。
アナログレコードから抜きとられたであろうサンプリングのサウンドが、美しいコラージュのように組み立てられ、メンバーのラップでさえもその一部として取り扱われているようです。
そして一曲、一曲がひとつの芸術品のような完成度。
それでいて簡素でザラついた音質が、パンクの反骨心とDIY精神を感じさせてもいました。
もうひとつの代表作として知られるサードアルバムの『Mezzanine』では、深層心理に導くような奥深いダークネスが追求されています。
このアルバムで気楽に聴ける曲はほとんどありません。
唯一、70年代のサザンソウルをサンプリングした"Exchange"にゆったりとした空気が流れているぐらいです。
アルバム全体にはダウンテンポながら緊迫したムードが漂い、苦悩、祈り、酩酊を表しながら、どこかひとつの清浄な地点を求めているような印象。
サウンドの重さや暗さが、そこに神秘性をプラスしています。
写真家のニック・ナイトが撮った精巧なクワガタのジャケット写真が象徴するような『Mezzanine』の漆黒の世界は一聴の価値ありです。