ウインド・リバー

ウインド・リバーのレビュー・評価・感想

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ウインド・リバー
9

ネイティブアメリカンの現状

少女失踪を基にした映画はアメリカで多く作られていますが、本作は単なるサスペンス物では無く、実に優れた社会派スリラーとなっています。
アメリカの良心を象徴した、カウボーイ姿でハンターの主人公はネイティブアメリカンの人々と支え合い雪深い山岳地で暮らしています。しかし彼は娘を亡くしています。犯人はわかりません。
彼は友人のネイティブアメリカンの娘の死体を発見した事で経験の浅い女性FBI捜査官と事件に協力する事になります。
映画を見ていく中、観客はある事に気付きます。ネイティブアメリカンの父親が捜査官に心を開かない事、事件性が無いと警官は動かず数も少ない事、採掘所で働く酒に女に溺れる粗暴な男達、カウボーイを嫌う、ヤク中の悪い若者達…皆希望無く彷徨い生きるこの雪の地帯はどこか普通とは違うのです。
実は現実の世界でも多くのネイティブアメリカンの女性が失踪し、死体さえ見つかっていません。物語の舞台は現在もアメリカ各地に残る、ネイティブアメリカン強制居住地そのものなのです。
この強制移住により、国は見返りにカジノ施設等を作り雇用を用意しましたが、残ったのは依存症患者や犯罪の増加でした。故郷を奪われた彼らは生きがいを無くし、ヤクや酒、女等にはまりました。一番弱い女性がおそらく犠牲になっているのでしょうが、映画は真実まで教えてはくれません。
カジノ問題や人種差別等は日本人にも身近な問題です。説教じみた映画では無く、娯楽作品として十分楽しめます。大人も若い人も見るべき作品だと思います。