サマーフィルムにのって

サマーフィルムにのってのレビュー・評価・感想

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サマーフィルムにのって
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『サマーフィルムにのって』青春キラキラムービーと一線を画す魅力

『サマーフィルムにのって』は、ただの青春キラキラムービーではない。時代劇の映画作りに燃える高校生の映画かと思いきや、SF要素や恋愛要素もある、要素てんこ盛り映画である。しかし鑑賞後はかつての青春に戻ったかのような、熱い感情で胸が満たされること間違いなし。全ての要素を決して雑に扱うことなく、きちんと描き切るために、不要な要素は徹底的に排除されている。主人公のハダシをはじめ、登場人物の家庭環境など、バックグラウンドは一切描かれない。親はどんな人なのか、兄弟姉妹はいるのかすら分からない。登場人物は勉強ができるのか、運動は上手なのか、高校卒業後の進路はどうするのかなど、青春映画にはつきものである学業についての言及も一切ない。しかしそのような要素は、映画作りに青春をかける高校生を描くこの映画には、一切不要なのである。
さらにミュージックビデオの監督を多数務めてきた松本荘史監督ならではの、テンポの良い編集もこの映画の魅力である。たとえば、主人公が映画部の部室で、映画を編集しているシーンを数日分重ねていくところがある。そんな普通のシーンでも、松本監督ならではの音楽を使った演出により、とても魅力的なシーンになっている。劇中では、未来の世界では、映画は存在しないセリフもある。しかし最後の1分まで観客の集中を切らさせない、映画をなくさせない、という製作者側の覚悟が伝わってくるテンポの良さだ。
映画が封切りになった途端、オンライン上ではネタバレ記事が多数作られ、YouTube上ではファスト映画が公開される。公開から数ヶ月経てば、多くの映画はオンライン配信される。そんな時代に映画館に映画を見にいく理由とは、何なのか。この問いに回答するのは容易ではない。しかし『サマーフィルムにのって』は、作り手目線の傲慢さを押し付けることなく、時代と共に変わりゆく観る側の感覚に寄り添いながらも、作り手としての目線から映画の楽しさ・美しさを描き切った秀作である。