過去の自分に読んでもらいたい作品
高校を舞台に、多感な生徒たちと主人公の倫理教師のお話。
倫理とは何か、生きるとは何か。人生を歩むうち、誰もが必ず一度は思い浮かべる疑問や悩みである。それを受け止め、主人公独自のやり方で解明していく様はよい意味でなかなか考えさせられる。
倫理とは概念であり、各々人の数だけ答えがあるのだろう。しかしそれをひとつひとつ丁寧にひも解いてみると、実はシンプルであったり、それでもやっぱりどこか複雑であったり。もはや明確な正解など無いのかもしれないが、少なくとも「より良く生きる』事は出来るのかもしれない。
もちろん正論ばかりではないし、この主人公でも解決できない疑問はある。人には誰しも得て不得手が存在し、完璧ではない。主人公もまた、「より良く生きる」とは何かを模索している。
なのでたとえ出来ないからといって曖昧に答えるのではなく、生徒たちの「悩みを打ち明ける」という勇気に真剣に向き合い、己の力不足を痛感しながらも他の人に託す事もする。
全ては疑問や悩み、不安を打ち明け、そしてそれを受け止めて一緒に向き合ってくれる人があってこそ。
この作品はかつて置き去りにしてしまった、もしくは今も尚、胸の中に燻っている読者の疑問や悩みさえも解決してくれるような1冊である。