リングにかけろ

リングにかけろのレビュー・評価・感想

リングにかけろ
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集英社ビルを新築したボクシング漫画、リングにかけろレビュー

友情・努力・勝利。
1994年に発行部数653万部のギネス記録を達成した、週刊少年ジャンプのモットーとして有名なこのフレーズ。
これを1970年代の終わりにいち早く定着させ、ジャンプ黄金期の礎となった作品が、車田正美作『リングにかけろ(1977年〜1981年)』です。

当初こそ60年代から70年代にかけて大流行したスポ根漫画の影響を受けた熱血人情モノの側面が強かったものの、日米Jr.チャンピオン決戦編で主人公の高嶺 竜児が、猛特訓でモノにした得意のフックに磨きをかけ「ブーメランフック」というスーパーブロー(各々の必殺パンチを、作中ではこう呼ぶ)を使いだした辺りから作品の方向性は大きく逸脱。
SFボクシングとも言うべき、新ジャンルを開拓していくことになります。

それ以降は「団体トーナメント戦」「かつて戦った強敵が仲間になる」「死亡したはずの味方が次のエピソードで復活」
「実際には存在しない文献や疑似科学理論を用いた解説」「修行→身につけたド派手な新必殺技で敵撃破」といった、後に数多くのバトル漫画で多用されるパターンを開発・定着させ、当時の少年読者の圧倒的な人気を獲得していきました。

物語の整合性よりも、読者をびっくりさせることをとにかく最優先し、アイディアの思いつくまま迸るエネルギーで突っ走っていた若き車田先生。
その集大成と言えるのが、竜児の宿命のライバル剣崎順の世界タイトル挑戦編です。

物語終盤、竜児に先駆け一足早くプロデビューを果たす剣崎。
通常デビュー時にはB級までしか認可されないライセンスを当然のように最初からA級で所持し、バンタム級の絶対王者として君臨するジーザス・クライストとのタイトルマッチがいきなり組まれます。

迎えた世界戦では、チャンピオンのジーザスがスーパーブロー「ネオ・バイブル」を天地創造を思わせるカットと創世記のナレーションを背景にひたすら打ち込み、剣崎は開始1ラウンド目でにして6回以上ダウンさせられます。

もはやダウンから立ち上がるだけで3分経ってしまうんじゃないかと言うくらい1ラウンドでボコボコにされ、心肺停止にまで追い込まれる天才剣崎。
そこにリングサイドで見ていた竜児が駆け寄り、涙ながらにスーパーブロー「ブーメラン・テリオス」を剣崎の心臓目掛けて叩き込みます。

熱い男の友情により蘇生した剣崎は、2ラウンド目に自身最大のスーパーブロー「ギャラクティカ・ファントム」を炸裂させ、ジーザスを会場である後楽園のスコアボードにホームランして見事勝利、いよいよ竜児との最終決着へと続くのでした。

『あしたのジョー』や『がんばれ元気』というリアルな劇画調作品が主流だった当時のボクシング漫画に革命を起こし、80年代に続くジャンプの黄金メソッドを1タイトルで作り上げた本作のヒットでジャンプの売り上げは大幅に上昇。
集英社のビルが新しく建て替わったという伝説は、半ばネタにされながら今もなお語り継がれており『リングにかけろ』は、漫画史的に非常に重要な作品なのです。