エイブのキッチンストーリー

エイブのキッチンストーリーのレビュー・評価・感想

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エイブのキッチンストーリー
9

料理で家族の絆を取り戻したい少年の奮闘記

何故か食べ物と異文化がテーマの映画に心が惹かれる。この作品の主人公エイブは、ブルックリン在住のパレスチナ系とユダヤ系のハーフ少年。誕生日や新年に双方の家族が集まると、食卓がおのずと宗教論争の場になりヒートアップし、誰もが天を仰ぐ始末。それは孫可愛さ故でもあるのだが、エイブにとってはストレスフルでやるせないだけ。何とか皆を喜ばせたい、家族をひとつにまとめたい、その一心で12歳の少年は大好きなクッキングに活路を見い出す。夏休みの料理キャンプのレベルの低さに途中で抜け出し、たまたまネットで興味を持ったフュージョン料理店に潜入。軽くあしらわれつまみ出されつつも、ブラジル人シェフのチコにはなかなかよい舌を持っていると気付かれる。翌日からキャンプの代わりに店に通い始め皿洗いからスタート。大人と共に働く事を通して様々なヒントを得ていく。来たるサンクスギビングの為に腕をふるおうと胸をときめかせていたがこちらも紆余曲折あり。イマドキの子供らしさもあり、料理のインスタ投稿写真も話の展開に程よいスパイスを効かせている。現実では厳しいけれど、美味しい食べ物は時に「人種」「国籍」「宗教」「信条」と、一筋縄ではいかない人間の価値観の相違を超えて胃袋やヒトの心をも打つ事もありますよね。音楽やアート、文学と同じように。そう心から願いつつ、エイブ少年の背中をそっと押し、同時に自分の心の扉も開こうと思えてくる佳作。