実在地名の元ネタ探しも一興の中世ファンタジー
月刊雑誌『シリウス』(講談社)にて2007年から連載が開始された中世ファンタジー作品。主人公「マフムート」が暮らす商業国家トルキエと帝国バルトラインとのし烈な戦いが織りなす物語だ。2017年7月~12月にはアニメ化もされており、こちらも同時に薦める。
主人公のマフムートは戦争で親を失い、雄鷲のイスカンダルと共に将軍カリルに引き取られ、彼もまた養父と同じように将軍となった所から始まる。失敗を重ねながらも持ち前の頭脳と度胸で逆境を乗り越えて成長し、信頼と実績を重ねていく…という王道を地で行くスタイルが良い。
未熟だった彼は「希望の星」と称されるほどに成長した。トルキエの地盤固めのために様々な国と都市を渡り歩き、味方になるよう説得していくが、そこで出会う人物はアクの強い者たちばかり。4つの国の王の世代交代背景がどれも特徴があり、「婚約者アイシェを守る決意を固めた末に親を殺し、王になったオルハン」、「マフムートの一計で母を廃位させて弟を王にしたアイシェ」、「段々と歪になっていった兄王・バラバンを討ち取り、王となったバヤジット(4人の中で死亡フラグオーラが半端ない)」、「自ら王になるために親を殺したイスマイル」と涙を流す展開もあるが、バヤジットの姿を見て躊躇いなく親を殺したイスマイルは逆に清々しいものがある。
本作で欠かせない存在と言えばザガノスという青年。将軍として冷静で優秀だが基本的に辛辣な性格でマフムートも例外なく衝突は少なくなかったものの、徐々に彼を認め態度も幾分か穏やかになっていった。二つ名も「毒薬のザガノス」なので毒薬の知識が豊富ゆえだが、むしろ性格の事を指しているのではないかと思わせてしまう。そんな彼だが皇帝の姪・レレデリクや宰相・ルイの反応から出自は帝国出身で侯爵家の子供以外の事は分かっていない。ちなみに遠征時は登場初期に見せたクールな態度ではなく、帝国への強い怒りと憎悪を見せていた。
本作はフィクションなので地名は架空なのだが、各都市の特徴を踏まえると自ずとモチーフが分かってくるのは面白い。例えば「ベネディック」という街。名前の響きは当然だが、海上貿易が盛ん、運河は道であり移動手段はもっぱら船である事からピンと来る人はいるはず。また各都市・国家の歴史を始め細かい所まで設定がされているので、作者の力量も大したものである。