エリン・ブロコビッチ

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エリン・ブロコビッチのレビュー・評価・感想

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エリン・ブロコビッチ
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映画レビュー『エリン・ブロコビッチ(2000年)』ジュリアの才能と美貌が咲き誇る痛快法廷ドラマ

本作は、笑いあり涙あり毒舌ありの心温まるヒューマン・ストーリーだ。
1993年のアメリカで実際にあった公害問題を扱う訴訟映画でありながら、かしこまらずに気軽に楽しめる、エンターテインメント性豊かな作品に仕上がっている。

主人公はアメリカ・カリフォルニア州に住むシングルマザーのエリン。
物語は、3人の子を抱えるエリンが仕事の面接を受ける場面から始まる。面接の結果は芳しくなく、エリンは一服して気を取り直し、車を発進させる。だがその直後、なんと今度は追突事故に遭ってしまうのだ。衝撃で首を負傷するも、事故の調停では相手運転手側弁護士の狡猾な挑発に乗って暴言を吐いてしまい、賠償金も得られずじまい…。

踏んだり蹴ったりのエリンは自身の弁護を担当したエドの法律事務所に押しかけ、「使えなければクビにしていいから」と頼み込み、強引な形で働き始める。ある日、勤務中に目にした書類に素朴な疑問を持ち、調査を進めるエリン。すると、大企業PG&E社が自社工場から有害物質を排出し、周辺地域の地下水を汚染しているという事実を知る。
工場周辺住民はPG&E社や医師(後にPG&Eから報酬を受けていたと判明)の言葉を信じ、安心して生活していた。だが、多くが癌や流産などの健康被害に苦しんでいた。その姿を目の当たりにし、エリンはエドと住民を説得して彼らのために大規模訴訟を起こす…。

主人公エリンは、短気で直情的な性格だ。子どもたちを無責任に置き去りにしたベビーシッターをののしって我が子に言葉遣いを注意されたり、「バカにされた」と感じるとカッとなって相手の体型や服のセンスを面と向かって酷評したり。そのため誤解され周りと対立してしまう事もしばしば。だが、そんなエリンの毒舌ぶりが見どころになっている場面も多い。

例えばPG&E社側の弁護団が提示した和解金額を鋭い比喩を交えて一蹴する場面や、エリンに言い返せず水を飲んで時間を稼ごうとした相手に痛烈なひと言でとどめを刺すシーンなど、歯に衣着せぬ物言いを観ていると心の底から爽快感を味わえる。また「こんな当意即妙な切り返し、超人的な頭の回転の速さと豊富なボキャブラリー、原告に寄り添う本物の熱意の3つが全部揃わないと出来ないのでは…?」と感心させられる。

感情むき出しで遠慮のないエリンの振る舞いに、「我の強さ」「大人げなさ」を感じる方もいるかもしれない。しかしエリンがただ自分の都合を主張したいだけのヒステリックな人物なら、匿名の電話で脅された時点で訴訟から手を引いただろうし、住民の家で出された手作りパンケーキを口にするのをためらっただろう。ましてや原告600人全ての住所や電話番号、家族構成を暗記するなどという人間離れした記憶力も持てなかっただろう。
「誰が何と言おうと正しいものは正しい」「不当に苦しんでいる人たちを放っておけない」という真っ直ぐな優しさが根底にあったからこそ、エドも住民も彼女の説得に応じて立ち上がり、巨大企業を相手取った前例のない訴訟を起こして闘う決心が出来たのではないだろうか。

エリンを演じたジュリア・ロバーツは、この作品で第73回アカデミー主演女優賞を始めとする多数の賞を受賞している。
体調不良を押して出勤したエリンがエドと言い争う場面がある。「この訴訟の実現に自分がどれほど心血を注ぎ、どれほど子どもたちとの時間を犠牲にしてきたか」を訴えながら、顔を真っ赤にして咳き込むジュリアの演技には、「このシーンのために意図的にのどを炎症させたのでは?」と思ってしまうほど鬼気迫るリアリティがあった。

余談だが1989年公開の『マグノリアの花たち』では、ジュリアは糖尿病患者の女性「シェルビー」を演じており、糖尿病の発作が起きてから症状が治まるまでの真に迫った演技を披露。この作品でゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞し、アカデミー賞にも初めてノミネートされている(一流の俳優ともなると、咳や震えなどの生理現象までも自在にコントロール出来てしまうものなのだろうか…)。

物語の最後。決定した和解金額を伝えるため、エリンが恋人のジョージと共に原告の1人であるドナの家を訪れる。600人の原告団に集まってもらい一度に発表するのではなく、個別に伝えに行く、という伝え方。実在するエリンがどのように住民に伝えたかは定かではないが、この演出が「公害の被害に遭っているのは書類上にまとめられた無機質な数字ではなく、それぞれ独立した意志を持って生きる血の通った人間なのだ」という事実を、声高になることなくそっと観客に提示しているように思える。

アルバート・フィニー(エド役)、マーグ・ヘルゲンバーガー(ドナ役)など、脇を固める多くの名優の演技も見どころだ。ドラマチックになり過ぎない落ち着いた演技で、「この人達は実在していて、これは実際にあった公害なんだ」と改めて実感させてくれると同時に、エリンの血の気の多さに観客が辟易してしまわないための絶妙な緩衝材にもなっているように思う。

気分転換にのんびり映画鑑賞したい方やジュリア・ロバーツファンの方はもちろん、日頃言いたい事を言えずにガマンしている方や、同調圧力の中で息苦しさを感じている方に特に観ていただきたい名作だ。

エリン・ブロコビッチ
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観るたびに元気をもらえる『エリン・ブロコビッチ』

ジュリア・ロバーツ主演の、実話を元にした2000年公開作品です。
観た後に爽やかな安堵感と元気をもらえるので、落ち込んだときや行き詰まりを感じたときにお勧めしたい映画です。
主人公のエレンは学歴やキャリアのないシングルマザー。仕事がなかなか見つからず、強引な形で弁護士事務所で働き始めます。
口が悪く感情的になりやすい彼女は敬遠され、誤解されながらも、担当することになった公害訴訟原告団のために奔走します。
法律の知識はゼロ。でも持ち前の行動力や正義感、共感力、記憶力、コミュニケーション能力、体力を総動員し、はじめは訴訟に否定的だった汚染地域住民の心をも動かしていくエレン。その飾らない魅力をジュリア・ロバーツは見事に演じ、第73回アカデミー賞を受賞しています。
和解金の成立額を原告の女性に伝えるクライマックスもさることながら、被告側弁護団との顔合わせで火花を散らす場面は特に、エリンのユーモアのセンスとしたたかさが絶妙な表現で描かれていて痛快です。
風邪を引いているのに出社し、エドと一悶着する場面のジュリアの演技は実際にそうなのではないかと思うほど真に迫っていて、エリンがこの訴訟に全てを賭けていることがひしひしと伝わります。
日々の生活に行き詰まりを感じて自信をなくしたり、心が折れそうなときに観て欲しい作品です。