大統領の料理人

大統領の料理人

『大統領の料理人』(原題:Les Saveurs du palais)とは、2012年に公開されたフランスの伝記映画である。監督はクリスチャン・ヴァンサンが務め、カトリーヌ・フロが主演した。1980年代にフランソワ・ミッテラン大統領のプライベートシェフとしてエリゼ宮殿史上初の女性料理人を務めた、ダニエル・デルプシュの実話を基に制作されている。
物語は、フランスの地方でレストランを経営していたオルタンス・ラボリが、ある日突然、大統領専属料理人に抜擢されるところから始まる。厨房の男性社会特有の嫉妬や厳しい官邸のルールに直面しながらも、オルタンスは大統領が求める「祖母の味」のような素朴で温かい家庭料理を作り続け、次第に大統領との間に確かな信頼関係を築いていく。しかし、厳格な健康管理による制約や予算削減の波が押し寄せ、理想とする料理作りを妨げられた彼女は、2年という月日で宮殿を去る決意をする。
映画は、エリゼ宮殿での華やかな過去の回想と、その数年後に彼女が料理人として働いている極寒の南極観測基地での日常を交互に描き出す。主演のカトリーヌ・フロは、芯の強い料理人を熱演し、第38回セザール賞にて主演女優賞にノミネートされた。劇中に登場する数々の洗練されたフランス料理も見どころの一つであり、食を通じた人間模様を鮮やかに映し出した作品である。

大統領の料理人のレビュー・評価・感想

大統領の料理人
9

おいしい料理と、時にはビターな人生

フランス大統領の専属料理人としてエリゼ宮に入った、史上初の女料理人オルタンスの物語です。
エリゼ宮での姿と、その後南極料理人として最後の一日を過ごす姿を交互に映すことで、彼女の境遇や心理が繊細に描かれた丁寧な一本です。

家族から教えられた地方料理を得意とするオルタンスは、「シンプルで家庭的なフランス料理が食べたい」と願う大統領のお眼鏡にかないエリゼ宮入りを果たします。雇い主の要望を叶えるべく、プロとして仕事と向き合うオルタンスは最高にクールで、観ているこちら側の背筋もなんとなくしゃんとしてしまいます。
しかし、実話をもとにしただけあって「カッコイイ女のおシゴト物語」だけでは終わらないのが本作。嫉妬を買った主厨房の男たちからの嫌がらせ、厳しい経費削減に伴い「本物の」食材を仕入れることが難しい歯痒さ、専属栄養士から突き付けられる多くの制約…オルタンスの受難は世の中の条理そのもので、軋轢に耐えかねた結果エリゼを去る結末は人生のほろ苦さを物語っています。
ひとりの女性の人生の一遍を、料理を通して覗いている気持ちになる映画です。

スクランブルエッグとセップ茸、サーモンとキャベツのファルシ、フォアグラの白ワインジュレ、エスカルゴのカスレット、おばあちゃん直伝のクリームたっぷりのサントノレ…素朴で温かみのあるフランス料理たちの美しさは一見の価値ありです。