あのこは貴族

あのこは貴族

『あのこは貴族』(あのこはきぞく)は、2021年2月26日に公開された日本のヒューマンドラマ映画。2016年に集英社より出版された、山内マリコの同名小説を原作とする。制作・配給は東京テアトル。監督は『グッド・ストライプス』の岨手由貴子、主演は門脇麦と水原希子。公開に先駆けて、2020年11月5日、第33回東京国際映画祭にて特別招待作品としてワールドプレミア上映された。
東京の街で、普段交わることのない世界を生きる女性2人が変化していく姿や、それぞれが抱える息苦しさを描く。都内で暮らす箱入り娘・榛原華子(門脇麦)と、地方から上京しOLとして働く時岡美紀(水原希子)。20代後半特有の息苦しさを抱える2人が、青木幸一郎(高良健吾)をきっかけに、出会い、自らの仕事や人生を見つめ直す。
生々しく描かれる東京の様相や、現代の独身女性が抱く悩みや息苦しさが、多くの共感を得た。
2021年10月27日に、Blu-ray・DVDが発売された。

あのこは貴族のレビュー・評価・感想

レビューを書く
あのこは貴族
9

じんわりと心に残るシスターフード

山内マリコさんによる同名小説を映像化した作品です。
東京に生まれ、医者の家系でお嬢様として育ってきた華子は、27歳で結婚を考えていた恋人に振られ、周囲のプレッシャーにより婚活に奔走することになります。その結果、自分よりも家柄が良く、ハンサムな弁護士・幸一郎と出会い、結婚します。これで幸せになれるはずでしたがそうもいかず…。
一方、猛勉強して慶応大学に合格し、地方から上京した美紀は、父親の失業により学費が払えず、キャバクラで働くも中退することになり、今は会社員として働いて何とか東京にしがみついています。美紀は幸一郎と大学の同期生であったことから、同じ東京に暮らしながら、別世界に生きる華子と、彼との縁で出会うことになります。

違う階層とは接点がないので意識することがありませんが、日本にも階級社会が存在しているということをこの作品はさらりと描いてみせています。
貧富の差、東京と地方、特権階級のような世襲議員によって支配されている日本社会の構造など、色々なことが汲み取れるようになっていますが、まったく堅苦しいお話ではなく、楽しめる作品です。華子や幸一郎のように裕福であれば幸せかというとそうではなかったり、それぞれの息苦しさが描かれています。そして華子と美紀が、対立することにはならず、互いや他の女性たちによって、古い価値観や自分を束縛する世界から、解放されていく様子に清々しさを感じます。

この映画で特に印象的だったシーンは2箇所あります。
1つは美紀と友人の里英が、夜の東京を自転車の二人乗りで楽しそうに走るところ。
東京に搾取されながらも、そのことを笑って話すことのできる、信頼できる友達がいる幸せ。生きる力をもらえるような、心に残る場面です。
もう1つは、華子が、自分の足で歩き始めて見かけた、道の向こうの見知らぬ二人乗りの女の子たちと手を振り合うシーン。今までと変わらずお嬢様らしくタクシーに乗っていたら素通りしていたであろう場面で、胸が温かくなる一幕です。

生きている世界が違っても、私たちは手を振り合うことができます。
分断の多い世界で、古い価値観や自分(たち)だけの閉じた世界しか見ずに生きていくというのではなく、色々な世界で生きている互いを尊重しあって生きていきたい、みんなが手を振り合える世界になるといいと、じんわりと思わせてくれる作品でした。

あのこは貴族
8

階層からの脱出

程度に差はあっても非常に身近なテーマだったので心に響きました。
たくさんの人間が一つの場所に集まっているように見えても実際は階層に分かれていて、別の階層の人と交わることなく生きているということが上手く描かれていました。
一見恵まれた環境に生まれ育った人でも自分の人生の選択肢が非常に狭く、結局親の人生を辿るだけという閉鎖性が上手く描かれていました。
登場人物たちははじめ、各々の階層に縛られて苦しみましたが、階層から脱出して自由に自分の人生を歩んでいる姿が描かれていて清々しかったです。
世間的に見れば道を踏み外したとも言われかねないのかもしれませんが、階層からのいい意味での脱却ができていたと思います。
絶対的なハッピーエンドではないかもしれませんが、自分にとっての幸せを掴むための入り口にそれぞれが立てていて気持ちの良い終わり方でした。
また、俳優陣の演技力がとても高かったです。門脇麦さんがお嬢様役を演じていましたが、わざとらしさが全くなく世間知らずな年頃の女性を上手く表現していました。
水原希子さんも演技力が高くびっくりしました。
あまり裕福ではない田舎出身の女性という、水原さん本人のイメージとはかけ離れた役でしたがきちんと演じきっていて素晴らしかったです。