野原ひろし 昼メシの流儀

野原ひろし 昼メシの流儀のレビュー・評価・感想

野原ひろし 昼メシの流儀
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物議を醸した漫画『野原ひろし 昼メシの流儀』 レビュー

今回は作品連載時に大きな物議を醸した問題作(?)野原ひろし 昼メシの流儀のレビューをします。
本作は双葉社「まんがタウン」にて2016年1月号より連載開始、故・臼井儀人氏が生み出した国民的名作「クレヨンしんちゃん」のスピンオフ作品となっています。主人公はタイトルの通り、野原一家の父・双葉商事係長の野原ひろし。この野原ひろしが様々なトラブルに見舞われたり、新しい体験をしながら店で昼メシを食べて食レポするという内容です。
しかし読んで見ると、最初に思うのが「これ野原ひろしである必要あんの?」です。まずひろしの家族はほぼ出てきません。最後のオチに足元の描写とセリフだけ出て来たり、まれに「しんのすけが食べてたな~」と回想する程度です。
会社での昼メシの話なので多少は仕方ありませんが、後輩の川口の出番の方が圧倒的に多い所を見ると少し複雑です。
他には「全体的に内容が薄い」「食レポの内容の使い回しが多い」「背景が異様に簡素」「不自然なストーリー展開」等、問題点が多いです。しかし、「珍しい料理の解説はしっかりしており、食欲をそそる所はある」「料理の匂いを嗅ぐシーンの強烈さ」「たまに出る異様に濃いキャラ」等、何故か読みたくなる謎の魅力があるのも事実です。
賛否が大きく分かれる作品ですが、この謎の魅力を感じたい方は一見の価値アリかと思います。

野原ひろし 昼メシの流儀
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サラリーマンの数奇なランチタイム

今や知らない日本人はいないと言っても過言では無い国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』。その主人公、野原しんのすけの父親・ひろしが、『昼メシの流儀』の主人公である。息子ばかりに、良いカッコさせないぜ!とばかりに、全編に渡ってひろしが顔を出す、ひろしファンにとっては垂涎のスピンオフ作品だ。
その内容は、息子の様にドタバタギャグで話を賑わす訳では無く、ひろしのランチタイムを描いた所謂「グルメもの」となっている。世のサラリーマンにとって、食事休憩は束の間のオアシスである。ひろしだってその例に漏れない。午前中の激務を生き抜いた企業戦士が、午後の戦いも乗り切る為に鋭気を養う。それがひろしにとってのランチタイムだ。
今日の昼メシを最高の1食にする為に。ひろしは一切の妥協をせず、自分の舌を満足させる一品を求めて奔走する。第1話のカツ丼に始まり、ピザ、立ち食いステーキ、ハンバーグ、中にはケバブやサンマーメンといった変わりどころまで食べ尽くしてゆく。美味しそうに昼飯を食するひろしの喰いっぷりには食欲をそそられるし、何よりサラリーマン男性の多くは、ひろしの様に充実したランチタイムを送りたいと思うのではないだろうか。家庭の為、会社の為に身を粉にして働く企業戦士・野原ひろしが、唯一ネクタイを緩め、自分の為に行動する瞬間。そこに共感を覚える男性読者も多いのではないだろうか。何を隠そう筆者もその一人である。「さーて、今日の昼メシはどうしようかな」「お、新しい店じゃねえか!」作品中には、そんなひろしの台詞が何度も登場する。仕事の合間の息抜きである昼食休憩を、本気で楽しむその姿勢、憧れずにはいられない。そして食事を楽しみ、会社に戻る時は、「さあ、午後も頑張るぞ」こう言って背中を向けるカットで終わる。美味しい食事で腹も心も満たし、来たるべき午後の戦いに向けて兜を締め直す。『腹が減っては戦は出来ぬ』という諺があるが、本作でのひろしは、正にその言葉を体現しているといっても過言では無い。昼メシへの飽くなき探求心・追及心こそ、野原ひろしが日々の戦を勝ち抜ける何よりの秘訣なのだろう。
また今作は「クレヨンしんちゃん」のスピンオフでありながら、しんのすけは勿論みさえ、ひまわりは手足やシルエットのみの登場で、素顔は一切見せない。飼い犬のシロに至っては、存在の言及すらない。これもひろしが主人公であることを読者に強く印象付ける為の演出だろうか、作者の強い拘りを感じさせる。反対に職場のキャラクターである部下の川口や草加ユミ、部長は度々登場しており、野原家の「父」「家長」「大黒柱」としてのひろしより、「企業戦士」「双葉商事営業部営業2課係長」としてのひろしの色を濃く出しているといっても良い。
更に昼メシの流儀オリジナルキャラクターとして、様々なゲストキャラが登場する他、1巻に一度は登場する謂わば準レギュラー的ポジションの女子大生・遥も欠かせない存在だ。自分のことをひろしが付け狙っていると勘違いする彼女が、ひろしとこの先和解出来るのかどうかも、見逃せないポイントなのである。「クレヨンしんちゃん」ファンもグルメ漫画ファンも楽しめる、至高のスピンオフ作品である。